第3話 デメキン様の所有権はサトウにある!?
俺とクリフとペットは豪商の家にいく。確かに今もそこそこの商家だ。ペットを見た従業員が、社長に会わせてくれると言う。スゲーなペット。
人の好さそうな中年の社長のいる応接間に通された。事情を話すと社長が何度も頷きながら、事の顛末を説明してくれた。
「5年前に死んだ親父が、ただ同然で帝国ホールディングスに所有権を売っちゃったんだよ」
「え! ただ同然なんですか?」
「帝国ホールディングスには恩があるとか、なんとか言っちゃってな。ご先祖様から代々所有権を譲渡するなって言われてたのに。まったく」
「親と子供の言うことが逆みたいですね」
会いに来たところで、所有権が譲渡されたことに変わりはないか。
「ご先祖様は、デメキン様ファンだったみたいだから、祟られるよ……」
社長がうなだれている。ペットも頷く。
「何度言っても、所有権は譲ってくれなかったからなー。いい奴だったんだけど、それだけはなー」
クリフがふと、いいことを言う。
「ペットさんは当時のこと覚えてるんですよね? 何か勝てるきっかけになることとか、思い出せないんですか?」
「そうだ! ペット何かない!?」
「うーん。特に何もないんだけど。この状況で、あいつが何も手を打ってないとは考え難いんだよなー。あ、お前と似てるやつな」
俺はつい体を乗り出す。
「何か残してくれてるってこと?」
「あるかもしれない!」
オミソ村に戻ろう。 頼む! 俺に似た人!
<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡
役場に行き村長室のありとあらゆるファイルをひっくり返す。もちろん現村長の許可は得ている。というか、ご主人だった。知らなかったよ!
俺とクリフ、ペットはひたすらにファイルに一晩中目を通し続ける。時たま舟をこぐクリフを、俺とペットでデコピンしながら。
ほっとんどの資料をひっくり返した時、ファイルの中から、重厚感のある薄い箱が出てくる。お願いだ、何か出てきてくれ。箱を開けて目を通す。
歓喜で俺は叫ぶ!
「クリフ、ペット、これ!!!」
<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡
俺とクリフとペットは帝国ホールディングスに行き、また支配人と弁護士と対峙する。やっぱり、この二人からの重圧はすごい。俺は深呼吸をする。
小手先じゃない。実質で勝負するんだ。
そりゃ弁護士じゃない。合格してないんだから。世間的には間違ってるかもしいれないけど、まだまだ勉強は足りないけど……。
俺は軽く目を閉じて、また深呼吸し、まっすぐ前を見据える。
この少ない少ない知識を、やり手弁護士には到底及ばない知識を、フル稼働して戦ってやる! デメキン様をオミソ村に戻すんだ。
……。まあ、無資格には違いないけどもね!
弁護士が余裕の表情で俺に声をかける。
「いらっしゃい。何か分からないことがあったかな」
「分からないことではありません。お伝えすることがあります。帝国ホールディングスにはデメキン様の所有権はありません」
「何か言い分があるのかな?」
「言い分ではありません。所有権は私にあります」
「うん?」
俺はオミソ村の村長室で見つけた箱を手渡す。弁護士が箱を開け、中に目を通す。
「これは?」
「その文書で第三者のための契約がなされています。受益者は私です」
「は?」
そこへ商家の社長が、部屋に入ってくる。
俺は社長に向かって言う。
「そして私は今、受諾します」
商家の社長が笑顔で答える。
「はい、分かりましたー」
クリフが後押しする。
「はい、相続人である諾約者に意思表示したので、これで所有権はサトウさんに移転しましたー」
弁護士の顔が少し曇る。
「何を言っているんだ?」
俺は弁護士に説明する。
「簡単に言ってしまうと、デメキン様がオミソ村からなくなった時、それを奪還しようとするものを受益者とする契約が、かつての譲渡人と当時の村長補佐との間でなされています」
クリフがなぜか胸を張る。出番少ないからな!
「それが、サトウさんってわけです」
畳みかけるぞー。俺もすこし笑顔になってくる。
「これで、帝国ホールディングスと私は対抗関係にあります」
今度は、ご主人が部屋に入ってくる。
「ご主人、今後は私のために占有してください」
ご主人が笑顔で答える。
「分かりましたー」
クリフが解説を加える。
「これで指図による占有移転が完了! サトウさんが対抗要件をそなえました。これで完全に所有者はサトウさんです」
あっけにとられている弁護士に向かって俺は言う。
「占有回収の訴えなんかを避けるために、オミソ村への通知をしなかったのが仇になりましたね」
弁護士に焦りが見える。
「こんな契約書、偽造かもしれない!」
フフフッ。かかったな。ブーメランだ。
「ここに、印鑑証明書があります」
弁護士が黙る。俺は満面の笑みで言う。
「二段の推定が働きますよねーー?」
勝ったな!
弁護士が憤る。
「訴訟だ! 訴訟! こんな契約書の証拠能力を打ち破ってやる」
訴訟はまずい……。
クリフが俺を突っつく。
「ほら、サトウさん。泣き落としの時間ですよ」
常套手段みたいに言って欲しくないよ!
ペットも俺を突っつく。
「お前なら、ぜったい落とせる!」
落とせるってなに!?
俺は支配人の方に目を向ける。
「あなたは、私に小手先はやめろとおっしゃいました。デメキン様をこんな風に奪ってリゾートホテルのシンボルにすることは小手先ではないですか?」
支配人は黙って俺を見据えている。こわーッ。そうだ、この人に小手先は通用しない。けど、小手先しか、もう残ってないんだ!
今度はマーガレットちゃんを、ぬいぐるみのように抱っこした、ララちゃんが入ってくる。マーガレットちゃんが大きくて、ララちゃんが、ほぼ見えない。
さすが能力者、力持ちだね!
「どうです!? このマーガレットちゃんのこのフォルム。可愛いでしょ!? モンスターの中でも断然にカワイイ! デメキン様に代わるキャラクターに!?」
クリフと、ペットの目線が痛い。
「サトウさんッ!?」
「サトウ!? お前なんか考えるって言ってたじゃないか!」
俺は逆ギレで二人に言い放つ。
「今、代替案を提案させて頂いているんだよ!」
みんな、本当はマジごめん。もう、思いつかなかったとしか、言いようがない。急がないと、どんどんデメキン様の宣伝がされて、リゾートホテルのものになっちゃいそうだったから!
支配人が俺を見据える。
「そうやって人を軽く見るのは、止めなさいと言ったよね」
怖い、怖い、怖い。
「はい」
支配人が弁護士の方を見る。
「この状況で、本当に訴訟で勝てるのか?」
「……。いや、こちらも準備をすれば」
「難しいんだな」
支配人がため息をつく。
「そうか、私も小手先か……。デメキン様はオミソ村のもののようだね」
支配人がニヤッと笑う。え? デメキン様返ってくるの? 本当に!? でもそのニヤは何。
「オミソ村にお返し頂けるという解釈でよいでしょうか」
「ああ」
よ、喜ぶ? 喜ぼーーー! 支配人とやり手弁護士以外のみんなで、歓声をあげてピョンピョン跳ねて喜ぶ。やったー!
<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡
オミソ村の噴水にあるデメキン様を見上げる。デメキン様も居心地が良さそうだ。
「うーん、やっぱりデメキン様はオミソ村にいてこそのデメキン様だよね」
……。でも、オミソ村は閑散としている。観光客は増えていない。
クリフとペットが新聞を俺の前に向けてくる。新聞には「マーガレットちゃん有名ブランドとコラボ」の文字。
帝国ホールディングスはシンボルを本当にマーガレットちゃんにし、大きな業績をあげた。支配人の商才が本当にマーガレットちゃんに反応したらしい。その後ゼニーと契約を結び、あっちも大喜び。人懐っこいマーガレットちゃんは、いろいろな人に会えて大喜び。WINWINの関係。
オミソ村を除いてね!
観光客は完全に帝国ホールディングスに持っていかれてしまった。
ペットがあきれて言う。
「敵に塩を送るってやつだな」
クリフがそれに追随する。
「試合に勝ってなんとやらの、ほうじゃないですか?」
俺はデメキン様を拝む。
「さあ、合格祈願したし、勉強しよう!!」
「おいッ!」
クリフとペットが声を合わせて突っ込んでくから、俺は、ちょっと言い返してみる。
「オミソ村の人はデメキン様が返ってきて良かったって」
クリフとペットがさらに反論する。
「そりゃ村の人は、そう言うでしょうよ!」
「そうだ!」
もう、こんな時だけ仲がいいんだから。
クリフとペットのブーイングを耳の穴を塞いで、凌ぐ。
まあ、そんなこんなで、とりあえず、ちゃんと合格します!
また会う日があったら、よろしくな!
弁護士のサトウ(嘘)!主に優しさとハッタリで溢れてます。 おしゃもじ @oshamoji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます