何やら怪しい一冊の手稿が手元に届く。
その手稿をゆっくりと捲り始めると……。
それは、全国各地に纏わる逸話だという。
その話、一つ一つには、摩訶不思議な怪異という要素で満たされているという。
それは、悲しみで有ったり、恐れで有ったり、又は理解出来ない不思議な現象。
それらは、まことしやかに語られているという話らしい。
それらは、何かの感情がその土地や物に、縛られて伝えられているのだそうだ。
各話が、まるで伝承の様に語る独特な語り口が巧妙で、読み手を引き付けて離さない。
さあ、今宵の百物語が、今、幕を開くのだ……。
百物語(厳密には九十九話)を最後まで真剣に読んだのは今作が初めてでしたが、おそらく他の百物語とは一線を画す作品集ではないかと感じています。
世間一般的なホラー小説は創作である以上、ラストでは主人公や怪奇現象が起こるその場所との因果関係などが解き明かされたりします。
それ故に読み手側からしてみれば『因果関係の無い自分とは無縁の現象』として捉えてしまい、結果『本当の怖さ』というものは読了後には半減してしまっているような気がします。
こちらの作品集はどうでしょうか。
読み進めてみればご理解いただけるかと思いますが、話の半数は怪奇現象の起こる因果関係が解き明かされることなく終わります。
作品のオチというものは、読み手側にとって一種の救いのようなものだと思っています。
謎が明かされることで、
『この話は創作だったんだ』
『自分には関係の無いフィクションだった』
そう理解させることで現実と創作の境界線を引く。
ホラーのオチとはそのためにあるのではないでしょうか。
そういった意味で申し上げるならば、こちらの作品集は現実と創作の境界線が非常に薄く、もしかしたら『いつか自分もこのような体験をしてしまうんじゃないか』と恐れを抱かされる内容ばかりが揃えられています。
フィクションのホラーは読み飽きた、そういった所謂上級者向けの作品集だと思います。
読了後にちゃんとこちら側に戻って来れると良いですね。