最終話『ダンジョン潜って一儲け!』

「レイ、おはようございますっ」



「おはよう、リルル。朝メシ作っといたよ」



 あれからリルルと夫婦として一緒に暮らしている。

 今後の家族計画の事も考えると、

 どの程度の大きさの家が必要になるか分からないので、

 家の購入は一旦保留にし、現在は賃貸を借りている。



 役場での婚姻手続きも終えているので、

 書面の上でも正式に夫婦としての生活を開始している。



「今日は天気が良いですね」



「そうだな、いい天気だ。今日は道具屋で商売の相談に行って、ダンジョンひと潜りしたら帰ってくるよ」



「おばあちゃんのお店ですが、今日はあたしも付いていってもいいですか?」



「もちろん」



 リルルは現在産休中だ。

 冒険者の仕事は危険な仕事なので、

 家で出産に控えて休んでもらうことにしている。



「うーん。空気がうまい」



「これも、賢者の石のおかげですかね?」



 賢者の石の王都に対する能力が向上したことで、

 一番変化があったのは農業や畜産業だ。


 土壌が劇的に改良したことで主食となる、

 ジャガイモや小麦などが短期間で収穫できるようになった。

 しかも味は抜群に旨い。


 その土壌で育った草を食べて育つ動物の肉も

 とんでもなくうまい。


 潤沢に食料を供給できるようになり、

 王都の貧困層にも十分に食料が行き渡るようになった。


 水質も改善された。

 井戸水は殺菌と寄生虫除去のため煮沸消毒してから使うのが

 一般的だったのだがその必要がなくなった。


 空気の質も改善された。

 魔法が存在するこの世界では大気中にマナと呼ばれる成分が

 含まれているようだがこれが潤沢になったらしい。

 

 王都に移住しているエルフの冒険者は、

 特にこの大気中のマナの含有量の変化に敏感で絶賛している。


 王都近海の海の質も向上した。

 いままでは比較的高級だった海老やカニやタコなんかが、

 市場に安価で出回り人々の食卓に出ることが多くなった。



「いろいろなことがありましたね」



「そうだな。大変なこともあったがリルルと一緒だから楽しかった」



「これからはもっともっと楽しくなりますねっ」



「もちろんだ」



 俺は王都の裏通りを歩いていた。

 道具屋のおばあちゃんのお店に向かうためだ。



「おばあちゃんのお店立派になりましたよね」



「隣のメイド喫茶もかなり繁盛しているみたいだな」



「メイドさんの接客がとても評判が良いそうです。レイが作った経験値10倍キーホルダーの効果でしょうか?」



「いや、本人たちの努力の成果だ。取得経験値10倍でも本人が努力しなければ獲得経験値はゼロだ。あとは、道具屋のおばあちゃんの適切な指導のおかげだろうな」



「そうですね。働いている子たちは10年近くのハンデを背負って苦労している子たちが多いと聞きます。やっぱり、彼女たちの頑張りのおかげですねっ!」



 リルルは彼女たちの境遇と自分の境遇を、

 無意識に重ねるところがあるせいか、

 彼女たちの成功がまるで自分のことのように嬉しく、

 また、誇りに思っているようだ。



 俺は道具屋の従業員用入り口から中に入る。



 道具屋の商品開発室で、道具屋の孫娘とエリクサが会話をしている。



「やはり賢者の石の生成には金や水銀などが不可欠なのではないでしょうか?」



「うーん。その考えって教科書的というか、ちょっと古くねぇか? ミスリルとアダマンタイトを合成させれば代替として使える。耐久性や魔力伝導率を考えるなら金や水銀よりも、遥かに高品質な物が作れるぜ」



「なるほど……勉強になります。触媒はいかがしましょうか?」



「リルルちゃんの旦那がたまに持ってきてくれるあの赤い回復薬。アレ使えばいけるんじゃねぇかなぁ。はーん。賢者の石という名前から神聖視していたけど、構造自体は意外と単純だ。再現できないわけではない。それと、やっぱ千年前の技術。改善点が多いな」



「なるほど……発想が凄いですね。本当に勉強になります」



 エリーさんと孫娘さんがかなり真剣にやりとりをしていた。

 集中している彼女たちを邪魔しないように俺とリルルは、

 目線をあわせて無言の一礼にとどめ、奥の部屋に進んだ。



 エリーさんは孫娘さんの弟子一号として、

 賢者の石を共同開発中のようだ。


 孫娘さんの話しぶりから、

 遠からず試作品が出来上がりそうな勢いだ。


 エリーさんがノートにメモを必死に取る姿はちょっと面白い。

 千年も経つと情報が古くなっているようで、

 “賢者の石”のエリーさんと言えど一から勉強し直しだ。



「おばあちゃん。こんにちは」



「こんにちはですっ」



「こんにちは。今日はリルルちゃんも一緒なのだね。リルルちゃんのおなかも随分と大きくなってきたね。おなかの子はすくすく元気に育っているようで何よりだよ」



 80歳を超えているのでおばあちゃんと呼んでいるが、

 本人の美容に対するたゆまぬ努力もあって40歳くらいに見えるほど若い。



「レイちゃん、今日はなんの相談だい?」



「商売についての相談です。ミスリルの剣、マジシャンズ・ロッドは供給過多であまり儲からなくなってきました。今の利益率が大きい商品はヤドリギの盾……ですが、これ一本柱では心配です。そこで、今後需要が出てきそうな商品についてお知恵をいただけないかと」



「ふむ、そうだねぇ。"生命の指輪"がいまは一番高く売れそうかねぇ。最近は農業に従事する人が増えてきた。だから常時体力回復の効果がある指輪の需要は高くなりそうだよ」



「なるほど……冒険者には人気がない商品でしたが、力仕事が多く、腰に負担のかかる農家の人には売れそうですね。勉強になります。今後"生命の指輪"を重点的に集めます」



「そうそう、レイちゃんは王都地下に新たに出来た初心者用ダンジョン二号館には行かないのかい? あそこの地下ダンジョンは生産系のアイテムが多く取れるらしいよ」



「そうですね。少数の商品に依存しているとすぐに供給過多で値崩れを起こすので新規開拓も重要ですね。”生命の指輪”集めが一段落したら調査に行きます」



「そうだね。うちの店も今後は徐々に生産職用のアイテムなんかも増やしていきたいと思っているので、レイちゃん頼りにしているよ!」



「がんばります!」



 俺は今日もダンジョンに潜る。

 王都にリルルと我が子のマイホームを作るために。



「それじゃあ。リルル、行ってきます!」



「レイ、いってらっしゃいっ!」



 さあ、今日もダンジョンに潜ろう。

 ダンジョン潜って一儲け!






              おしまい





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不遇職【錬金術師】が【運極振り】でダンジョン潜って一儲け! くま猫 @lain1998

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