第一一一一回 ――祝福。


 祭りの後の静けさを告げるようにも思える風鈴の音……


 その象徴のように第五回を数えたウメチカ戦も、白く輝いたという記憶を残して、そのエンディングは初期を彷彿させるように、梨花りかが歌うバラード調の曲で締め括られた。



 その時の余韻。


 その時のエンディングを飾った梨花のしっとりとした歌声が、まだ耳に残っている。


 青い朝が、いつものように訪れる中、僕はPCの前に身を置いて、僕が四年半の歳月を共にしてきたエッセイの締め括りを、今まさに綴っているの。……僕の青春の物語を。


 始まりは、梨花との出会いだった。


 ある意味では、梨花という存在は、僕に青春を齎したと言っても過言ではなく、影法師ともいえる存在だったの。僕が高額で違法な売り子をしていたことがキッカケで、僕と間違われて補導されたのが、そもそもの始まりだった。偶然の出会い? どちらかというなら運命的という方が強いのかもしれない。まるで、最初から決まっていたかのように。


 ――現実は小説よりも奇なり。


 だからこそ惹かれたと思うの、梨花が書いたエッセイに。


 僕と同い年の子。そして身近で、何よりも、僕と瓜二つと言わんばかりの激似した顔も身体も、まるで鏡を見ているかのように。世の中には三人、自分と似た人間がいると言うけれど、そこを超越して摩訶不思議な程。その正体は、一卵性双生児だった。そのことさえも出会わなかったら、もしかしたら、冥土まで持参しそうな謎だったかもしれない。



 今は古時計の近くのお部屋で、このエピソードを執筆しいる。


 そして今使っているPCは、ティムさんが僕のパパになって、娘としての初めてのプレゼントだったもの。黄色のカラーリングが特徴なノート型。海外メーカのもので安価。


 でも、僕には宝物だ。


 このPCも、僕のエッセイに付き合ってくれた仲間。それから、このお部屋には、僕の子供たちがスヤスヤと寝息を立てている。その近くにある古時計が、見守っているの。


 飾られた写真の少年。僕の伯父に当たる人だ。何だかんだ言っても、スーッと僕の前に現れる。もしかしたなら、パパ(新一しんいちさん)よりも子煩悩な人かもしれない。思えば、僕が素直になれる場所だった。旧一もとかずおじちゃんは、今も僕らを見守っているようだ……


 そして僕が心の内で慕っている人は、やはりお母さん。


 どんなに貧困になっても、僕を捨てなかった。少しばかりの虐待はあっても、最後には自分に勝っている強い人だ。僕が十三歳まで、ティムさんが僕のパパになるまで、女手一つで僕を育ててきた人だ。僕自身が二児のママになって、そう思えたの。


 お母さんは喜んでくれた。


 この子たちのパパ(太郎たろう君)を迎え入れてくれた。十八歳と十七歳のママとパパで、早過ぎる出産だったけど、喜んでくれたの。……「千佳ちか、孫をありがと。私たちにはできなかったことも。パパとママ、二人揃ってることも、この子たちの幸せに繋がってるから」



 そして青く静かな朝も、混ざり合う色たちで賑やかに変わる。


 蝉時雨も盛んとなる中、僕は顔を合わしていく。このお部屋にいるだけでも、人と会うの。ボッチだった頃とは考えられない程。それはこの子、梨花と出会ってから。


 ……正確には、再会というべきなのだろう。


 僕らは、お互いが知らないうちに生き別れていて、一卵性双生児と知らずに暮らしていたのだから。奇跡的な再会。僕はずっと梨花の妹で、ずっと仲の良い姉妹を続けるの。


「おはよ。早いね、起きるの」


「うん、今日はね。七月ももうすぐ終わるね。宿題は、あと読書感想文で……」


「千佳もなんだ」「梨花もなの?」


 クスクス笑いが漏れる、僕も梨花も。考えていることは同じと思うけど、


「読者感想文、似たものにならなきゃいいけど」と、梨花は言ったけれど、


「まあ、今までだったら。でも今年は一味違うみたい。ほら、来たみたい。太郎君だけじゃなく、我がウメチカ戦での戦友たちも引き連れてきたみたい。これってまるで」


「まあ『白い三連星』と呼ぶべきかな? 読書感想文も各々の個性が現れそうだね」



 こうして四年半の僕のエッセイは一先ずの完結を迎えた。ボッチだった僕から広がった縁は、心から笑顔になれる程、僕をボッチにしなかったの。そう。溢れる祝福の中で。


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新章たるウメチカ! 大創 淳 @jun-0824

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