第8話 鉄研とクラスカーストは使いよう

 

 翌日の月曜日。


 桜のことを全部忘れるようにして眠った俺はいつものように学校へ向かった。


 ゆきには会わなかった。いや、そもそも会いたくなかった。だから、こうしてギリギリの時間に登校した。

 そんな俺を待っていたのはリア充グループからの称賛の嵐だった。

「聞いたぞ武蔵! なんか依与吏の元カノの悪事を暴いたんだってな!」

「……は?」

 間抜けな顔をしなかった俺を誰か褒めて欲しい。

「すげーよな。依与吏のために鉄研なんてオタクばっかり集まる場所に潜入して!」

「本当にすごいよ! 友達のためでもここまでできないよ!しかもその女三年なんでしょ?」

「武蔵、最近ノリ悪いと思ってたけど……見なおしたよ!」

 依与吏を見る。口の端を持ち上げた。

「武蔵ありがとうね……依与吏があんな年上メンヘラ女にストーカーされたなんて知らなかった……本当にありがとう」

「……あぁ」

 何も言えずに、何も言いたくない。そんな時にちょうどチャイムが鳴って、みんなが自分の席に戻る。

 俺は先生に注意されるまで、立ち尽くすことしかできなかった。



 深夜。MP5の弾丸が窓ガラスを叩く音で目覚めた俺はスウェット姿で公園に。オタクファッションに身を包むわかばはジロりと俺を睨むばかりを言葉を発しようとしない。

「……ごめん」

「何に対して謝っているのかしら?」

「……もちろんわかばの命令を達成できなかったことに対してだよ」

「……そう」

 わかばが俺から視線を外す。

「本当に最悪な結果ね。見事サークルクラッシュ。オタサーの姫は引きこもり、取り巻きたちは桜のことを訴えて、鉄研は半永久的に謹慎のため活動休止。来年の機材独占も情報も得られなくなる……誰が得したのかしら?」

「……機材は残念だったが情報は得られる。部長のツイッターの鍵アカウント見つけた。そこに鉄研の部員に流していた情報と同じ情報を流してる……部長はしかも相変わらず顧問の先生とも仲がいいみたいで普通じゃありえない速度で更新してる」

 スマホを操作し、わかばに部長のツイッターアカウントを見せる。鍵垢だったが、適当な鉄オタを装ったアカウントを作りフォローしたらあっさりフォローバックが来た。そこにはつらつらと、まるでロボットのようにどこからか仕入れた情報と並んでいた。

「……そう」

「なぁ、俺はなんでこんなにつらい思いをしてるんだ?」

 中にあるものを全て集約させて吐き出す。

 なんで俺がこんなことをしているんだろう。


 だって、俺はオタクは辞めたから。


 鉄研なんてオタクの部活にもぐりこんで情報を集める? 機材を独占する? そんなことなんでしなければならなかったのだろう。

「私の付き人になると言ったのはあなた自身でしょう?」

 その通りだ。でも、醜い過去を守ることが、今リア充でいることより優先されるのだろうか。俺はいったい何をしたいんだろう。

「今日は帰る」

 わかばに背を向ける。今はどんな言葉も聞きたくなかった。

 俺はまだリア充と関われるんだ。星の見えない空の下、心の中で狂うほど繰り返した。



《了》

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クラスの清楚系が駅先で(三脚を振り回しながら)罵声を上げていて困ってます。 ひなもんじゃ @hinamonzya

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