第6話

月曜日。シュウは学校にこなかった。

オサムは何度も電話をしたが出なかったが、夜9時を過ぎたころにシュウから電話がかかってきた。オサムは携帯に飛びついた。

「シュウ!お前今日、どうしたんだよ?」

「・・・オサム、今から会えない?」

「どこよ?」

「公園、いつも通るとこ。」

「おけ。」

「オサム、こんな時間にどこ行くのよ!」カナが引き留める。

「やっとシュウが連絡してきたんだ、すぐ戻るから!」

「あ、そう。わかった、行ってあげな。」

「うん。ありがと。」

「あ!オサム待って。」

「何?」

カナは財布から2,000円を出し、渡す。

「もしものために。」

何が「もしものため」かわからないけど・・・でも、母ちゃん、サンキュー。


公園に行くと、ベンチにシュウが座っていた。

「シュウ!」

「おお、悪いな。」

シュウの顔には、青あざができていた。

「シュウ!どうしたんだよそれ!」

「いやぁ、参ったよ。昨日、チヨコ先輩の仲間に囲まれちゃってさ、最初、チヨコに謝れって言われたんだけど、俺ちょっと態度悪くしちゃって。んで殴られちゃったわ。」

「マジかよ!そいつら誰だよ!」

「いや、いいんだよ。俺が悪いんだから。それに、チヨコ先輩がもうやめてって言ってたから大丈夫。そいつ、逆にビンタされてたしな。やったやられたとか、仕返しとか、俺そういうの面倒だし。」

「今日何で休んだんだよ。」

「うん、ちょっとさ、色々とありすぎたんだよ。」

「シュウ・・・お前どうしたんだよ。何かあったのか?俺じゃ話し相手にならないの?」

「なるから呼んでるんじゃん。」

そう言った後、シュウは黙り込んでいた。

「・・・なあ、シュウ。」そう言って、肩に手をかけた。

小刻みに震えている。

シュウは、泣いていた。


「シュウ。」



「・・・・ごめんな。俺さ、親が離婚して、それがきっかけでこっち来たんだよ。親父の職場がこっちになってさ。」

「うん。」

「今、親父と暮らしててさ、でも、母さんが、落ち着いたら俺を引き取るからって約束してたんだ。必ず迎えにくるからって。」

「うん。」

「俺は両親どっちも好きなんだけどさ。だから、もしかしたら、また一緒にみんなで暮らせるのかもって。」

「・・・うん。」

シュウ。

「でもさ、母さん、再婚するんだって。」

「え。そんな・・・」

シュウ。俺はお前の力になりたい。

「それでさ、俺、裏切られた気持ちになって・・・」

シュウが泣き崩れた。

オサムは、シュウの背中を撫でた。

「シュウ・・・」

「こんなのって、ガキみたいだよな。ごめんな。俺・・・」

「謝るなよ。そんなの、誰だって泣くよ。俺たちまだガキなんだぞ。母親に裏切られたら、辛いに決まってんじゃん!」

オサムも一緒に泣いていた。

いつもは大人びた雰囲気のシュウが、まるで小さな弟のように感じた。

オサムは自分がカナにいらないと言われた場面をイメージしてしまい、さらに大声で泣いた。

「オサム、お前・・・俺より泣いてんじゃん。」

「知るか!シュウ、お前ももっと泣けよ。」

二人で泣きながら、最後は笑っていた。


そのまましばらく二人は公園で話し続けた。

お互いの子供の頃の思い出や、将来のこと、親のこと、いろんな話をした。

その時間は1時間か、2時間か、もっと長かったのか。

気づけば、シュウはいつものシュウの笑顔に戻っていた。

よかった。シュウ。お前の笑った顔って癒し効果ありすぎるよ。

「オサム、なんかオレ腹減ってきたな。」

「そうだな。あ!」

「ん?」

オサムのポケットには千円札が2枚入っている。

母ちゃん。

「シュウ、コンビニ行こうぜ。からあげチャン食いてえ。」

「ドーソン限定かよ。」

二人で公園を出て歩きだした。

その時、懐中電灯が二人の顔を照らす。

「君たち、中学生?高校生?」


あちゃー、警察だ。


派出所に、カナが駆けつけた。

「本当に申し訳ございません!私がコンビニに買い物頼んだんです!2000円渡してます。」

「お母さん、未成年にこんな遅い時間に買い物なんて。それに、こっちの子はなぜ一緒にいたんですか?」

堅物そうな警官が睨みつける。

「えっと、シュウ君はうちに泊まりに来ていて、それで、一緒に・・・」

カナは、オサムとシュウに目配せする。

二人は笑いを押し殺して震えた。

「そうですか!とにかく、両方の親御さんが揃ってから帰ってもらいますから。」

その時。

「申し訳ありません。息子を迎えに参りました、佐藤と申します。」


佐藤が現れた。


「佐藤さん!?」

「カナさん!?」

「お父さん。」

「あ、オッサン!」

4人は、お互いを呼びあっていた。



あれから半年が過ぎた。

もうすぐ、俺たちは卒業だ。

シュウは俺より成績がいいから、高校は別のところだ。

だけどシュウと俺は、親友であることには変わりはない。

学校は別々になったけど、来年から俺たちが学校に持って行く弁当は同じものだ。

母ちゃんが作る、すげえ美味い弁当。

学校が同じでなくて良かったかもしれない。

「修」って書いて、読み仮名だけ違うなんてややこしいもんな。


俺たち、名字が同じになっちゃったから。

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オサムとシュウとお弁当 SAYURI @sayuri123

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