一巡りのシエル――二
仕事の時間まで時間があると思って町をうろついていると、迷子の女の子に出会った。
迷子の女の子を警察署に連れて行くと「誘拐ですか?」と聞かれた。
警察官の誤解がとけた時「迷子を警察に連れてくる人は初めてでしたので」と謝られた。
私はすでにシェルターに戻りたい。
仕事の時間、着いたのは音楽が扉の外まで漏れ聞こえるプレハブ小屋だった。
回れ右をしたいが、そんな事は言っていられない。
缶ジュースの男なんかにチャレンジ精神がどうだなどと言われてムキになっているのかもしれない。活きのいい音楽がピチピチと飛び出す扉を開ける真面目顔したスーツの私。
中に入ると、後はどうやって出たのか覚えていないまま私は今、朝日の昇りきった空を見上げている。覚えているのは「頼むからもう帰ってくれ」という店主の怒声だけだ。
それからも散々な目に遭った。
宗教の勧誘。独り身で寂しいと言ったお爺さんの手伝いをすれば、隣の畑に分かれた妻が住んでいる。
職探しに行けば迷惑そうな顔で追い返される。
『そうだ。シェルターへ帰ろう』
しかし窓口での対応や警察官の事とプレハブ店長について苦情くらいは言いたいと珍しく意気込んで思想相談窓口へ行く。
相変わらず人が溢れている待合だ。
気が付くとまたシェルターに飛び込んでいた。
総合受付には相も変わらずいつもの女性がいた。
「あれぇ? シエルさん。最短記録更新じゃないですかぁ。おかえりなさい」
「ただいま戻りました。苦情を言うのに二時間待ちで、人々は他人行儀か不躾。あの国のルールは明確になっておらず、誰も守り方を知らない。私はちゃんと他人に親切にできる国に住みたい」
「外で優しくしてもらえなかったんですかぁ。てゆうかそのルールっていつか知らない誰かが作ったルールでしょ? そんなにこだわる必要ありますかぁ? 他人に親切に出来るなら自分のルールでいいじゃないですかぁ。たぶんシエルさんが守って欲しいのってぇ、モラルですよねぇ? 今の所そんな国はないですよぉ。バウム国に期待して下さぁい」
優しい顔した海に殴られた気分だ。
しかし青天の霹靂。そうだ。私はモラルのある国に住みたいのだ。
やっぱり外には理想の国はないらしい。バウム国だって他国の政治的介入が激しいので望みは薄い。
私はまた鍾乳洞の方へ、犬猿の棲み処へ赴く。いずれ種族を越えた国になろう。
思想シェルター 小林秀観 @k-hidemi
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