エピローグ
どこまでも遠く続く青空。白い砂浜、海の色も素晴らしく青い…。やっぱり外国の海は色が違うなと光莉は思った。今日は、母と伸一さんの散骨のために、二人が希望した島まで兄弟3人で旅行に来ていた。
「散骨は二人の希望だったけど、日本から遠いよね。飛行機と船と…。どうして日本のお墓じゃダメだったのかしら…。変わっているのよね。私、締め切りが近いのに…。」
私が独り言をぶつぶつ言っていたら、兄の滉一が返事をしてくれた。
「お前が、忙しいのはわかるけど、俺だって今のプロジェクトから抜け出さすのって大変だったんだからな。お前はいいよ、サラリーマンじゃないし、どこでもパソコンさえあればできる仕事なんだから。あ、今時は携帯電話でも大丈夫だよな。それもやりたかった作家だろう?こういう島だったら、いいネタにもなるし…。なんか書いちゃえば?」
兄は気楽で困る。作家として文字を起こすというのは、そんなに簡単にできることではない。あーあ、本当は厚生労働省とかの役人になって、一生安泰の生活をするはずだったのに…。私の一生を変えたのは、やはり亮おじさんだって考えちゃうじゃない?考えた末が、これなんだから、まあいいかって感じだけどね。
「お兄ちゃんは、今のプロジェクトはどんな感じなの?」
光莉は、すぐに気楽に質問する。まだ、機密事項だから、関係者以外には話せないって言うのに。そう、亮おじさんと亡くなる前に話していた、人工子宮がもうすぐ完成する。本当に子どもを欲しがる人を助けることが出来るようになるんだ。
「捷人はどうしたんだ?早く呼んで来いよ!」
「彼女と電話しているんじゃない?もうすぐ結婚だしね。」
「いやでもこれからずっと一緒にいるのに、今から尻に引かれているのか?」
「二人が幸せならいいじゃない?そう言えば、捷人が彼女と会ったのって亮おじさんのお葬式だったよね?社長のお嬢さん、捷人にはもったいないくらい可愛い子。捷人もあの会社に就職して、なんとか一人前になれたし、お母さんも伸一さんも安心じゃないの?そうそう、お母さんと伸一さん達も結婚まで時間かかったね。亮おじさんが亡くなって、2年くらいだっけ?ぐだぐだしてさ。お兄ちゃんが、早く結婚しろって言わなかったら、きっと二人まだ結婚していなかったと思うよ。『こんないい人と結婚しなかったら一生後悔するよ』だったっけ?お兄ちゃん、よくこんなこと言ったよね。」
「あの二人は、ああでも言わなきゃ、動かなかったと思うからさ。」
「二人が結婚してから、お母さんは看護師を辞めて、マネージャーになっちゃって、ずーと一緒にいたよね。」
「そのせいで、二人とも交通事故だろ?良かったのか悪かったのか…。」
「良かったんじゃないかな?二人はいつも幸せそうだった。亮おじさんって二人のキューピット役だったのかもしれないね。そうだ、亮おじさんが光り輝いて見えた、あの光って何だったんだろう?お兄ちゃん、どう思う?」
「うーん、何だったんだろう。希望の光?幸せになる光?」
「なんだろう…。生きていく道を照らす光?」
「人生を導く光だよ!」
後ろから声がして振り向くと、捷人が笑顔で言った。
そうかもしれない、光莉はそう思った。
光が教えてくれたこと 糸已 久子 @11cats2dogs
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