朋桐さんと僕の空間
緋那真意
第1話 朋桐さんとのはじまり
ほとんどの子が小学校からエスカレーター式に進級してくるこの中学に、僕は外部入試を経て進学してきた。
故に入学してから最初の一年間は学校の勉強についていくのに必死だったり、新たに人間関係を作り直したりで手一杯。二年になりようやく、自分に関わるもの以外の周囲にまで目を向けられるくらいの余裕ができる。そんな中で出会ったのが朋桐さんだった。
僕が彼女のことを見ていたときに限定するならば、彼女はあまり友人が多くないように見える。いつも一人か、多くても二人。あまり活発な方でもなかったようで、昼休みなどに一人で教室にいることも多い。あるいは彼女も僕と同じ外部入学の生徒であったのかもしれなかった。
彼女と僕の接点はささいな出来事から始まる。ある日のこと。僕が授業を終えて教室を出、下駄箱へと向かっていると後ろから声をかけられた。僕が振り向くと、そこに朋桐さんが駆け寄ってきた。その手には一冊の本がある。それは僕が読んでいた文庫本で、僕がうっかり机の上に置き忘れてしまったものを、わざわざ届けに来てくれたらしい。僕が彼女に礼を言うと、彼女は「気にしないで」と小さく微笑んだ。
彼女は決して美人ではない。どちらかといえば下から数えたほうが早いくらいの平凡な顔立ちをしている。それでも、いや、それだからなのかも知れない。彼女の微笑みにはどこか無視することの出来ない不思議な華やかさがあった。
僕は朋桐さんに短く別れの挨拶をすると、不思議な感覚を覚えつつ家へと帰っていく。
僕と朋桐さんとの不思議な関係は始まったばかりだ。
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