第2話 朋桐さんと絵

 朋桐さんは一人でいるときは決まってノートに何かを描いている。それは漫画のキャラクターであったり、家で飼っているという猫であったり、あるいは自分で創作した何かであったり様々だ。



 僕が朋桐さんの絵について知ったのは、美術の授業で彼女の絵を見る機会があったからである。正直な話、絵を描くのが上手くない僕にとってみれば絵を描くのが上手いというのはそれだけで尊敬に値する事実であった。

 先生に指名されて朋桐さんの絵についての評を求められた僕は、迷うことなく率直な言葉で朋桐さんの絵を評価している。



 その日の放課後、僕が教室でぼんやりと本を読んでいると朋桐さんから声をかけられた。美術の時間に自分の絵を褒めてくれてありがとう、と。

 授業での出来事だからある意味辛口の評になるはずも無く、わざわざお礼を言われるような話でも無いような気もしたが、彼女が言うには僕の感想が一番心に響いたらしい。

 僕は気恥ずかしい感じがして「上手いものを上手いといっただけ」とわざとぶっきらぼうに返事を返したが、彼女は「褒めてくれたことには変わりがない」と微笑みながら僕に言った。


 それ以降、僕と朋桐さんはたまに交流を持つようになる。僕も朋桐さんも昼休みは一人で教室にいることが多く、二人して教室に残っているときに朋桐さんから描いた絵の評価を求められることがあり、僕も自分の読書の邪魔にならない限りは自分のできる範囲で感想を話した。時には辛めの感想を言っても、彼女は怒ることもなく静かに耳を傾けていた。

 最初は朋桐さんから僕に絵の感想を求められるだけの関係だったが、そんなことが何度か続くうちに、僕も彼女に読んでいる本を紹介するようになっていく。


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