第4話 親戚ってどんな人?
ここで少しだけ、愛媛に来ることになった経緯をおさらいしたい。とはいえ、理由は至極簡単なもので、父親の海外赴任について行かなかった。それだけだった。父親は単身赴任も辞さないつもりだったのだろうけど、母親はついて行くと主張した。じゃあ、私は?となったときに、どうしても海外で暮らす自分自身を想像できなかったのだ。東京で一人暮らししたい、という思いも打ち明けたが、中学生の身でそれは叶わぬことだった。
「おじさんが愛媛に住んでいる。そこでお世話になるのはどうだろう?」
と、お父さんが提案したことでそれが妥協点に落ち着いた。愛媛を訪れたことはなかったが、海外と国内を天秤にかけたときに、はかりが重きを置いたのは後者だった。ただ、それだけだったのだ。
「ようこそ、奈央ちゃん。自分のうちやと思って好きに使いー。」
「おじゃましまーす。」
駅からおじさんの家は車で5分ちょっとと言ったところだった。親戚の家とはいえ、初めて伺う他人の家というのは緊張するものだ。
「奈央ちゃん、来たでー。」
そうおじさんが中に呼びかけると、おばさんといとこが玄関に迎えてくれる。
「いらっしゃい、奈央ちゃん。よう来たねー。遠かったやろ?」
「そうですね、初めて愛媛に来ましたけど。これだけ長く電車に乗ったのは初めてです。」
主に、岡山からの特急列車の印象だということは伏せておく。
「それは、しんどかったやろ。浩介、奈央ちゃんの荷物もってやりや。」
浩介と呼ばれたいとこは、おばさんの足に隠れるようにこちらの様子を伺っていた。
「姉ちゃん、誰?」
「浩介、説明したやん。いとこの奈央ちゃんが一緒に暮らすって。」
おばさんが説明してくれたが、訝しげな目で見ていた。私はなるべくやわらかい笑顔を作り喋りかける。
「浩ちゃん、久しぶり。まだちっちゃかった頃に会ったことあるんだよ。よろしくね。」
「ちゃん付けとか恥ずかしいやん。もう小3やけん!荷物多いけんもっちゃるわ。」
方言もあいまって、ぶっきらぼうな言い方に聞こえるけれど、彼なりの精一杯の優しさを感じることはできた。
「ありがとう、浩介くん。」
「浩介でええけん。姉ちゃんの部屋、俺の部屋のとなり…。覗かんといてよ?」
「こら、それは奈央ちゃんの言うことや。浩介がうるさかったら言ってええけんね。」
やりとりを聞いていたおじさんが浩介くんを諌める。
「いえ、大丈夫ですよ。弟ができたみたいです。」
「ほうかー。まぁ、うるさいやつやけど、仲良くしちゃってや。」
「はい。これからよろしくお願いします。」
おじさんは返事の代わりににっこりと笑って応えてくれた。
「ここが姉ちゃんの部屋。前まで物置やったけど、父ちゃんと母ちゃんがよう掃除しとったけん、綺麗になってると思う。」
「そうなんだ。荷物持ってくれてありがとうね。」
「礼とかいいけん!晩御飯になったら呼びくるけんね。」
そういって浩介くんは部屋を出て行く。今まで普通に使っていた部屋に年上の女子が暮らす…、幼いけれど、ソワソワした気持ちを感じているようだった。
私の部屋となった元物置は殺風景なもので、部屋の隅に机と箪笥、押入れに布団が入っているだけだった。引越しの荷物は明日届く手筈になっており、初日の今日は最低限の手荷物だけだ。静かな部屋で一人物思いに耽る。
「愛媛に来ちゃったんだなぁ。上手くやって行けるかな。」
新幹線と電車を乗りついで7時間弱、親戚の家とはいえ、知ってる人がいない土地での生活。どちらかといえば、不安のほうが大きい。
まぁ、でも自分で選んだことだし、なんとかしないとなぁ。と、そう結論付ける。それにしても…。
「ここの人って、関西弁?なんか、ちょっと違うような。」
今日の学び
方言って変な感じ。
タルトは渦巻いている 佐貫未来 @w230046h
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