第3話 何で20分?

 結局その後、長旅で疲れたのもあっておじさんに連絡し、駅まで迎えに来てもらうことにした。市駅だとか衣山だとか、初めての土地の位置関係も分かるわけもなく、最初からこうすればよかったと軽く後悔する。

 やはり、最初の印象どおり駅前にも駅中にもこれといって見るものもなく、構内でたまたま見つけた待合室のベンチに腰を下ろした。構内には土産物売り場とコンビニが合体したようなお店もあったが、今は長旅で疲れた足を休めたい。


 座りながらふと思う。そもそも、愛媛って場所を私はあまり知らない。四国のうちの1つ、みかんが有名。ゆるキャラも一時期流行ったような。でも、実際に降り立ってみても香川と愛媛がどっちがどっちだか分かってないし、有名人や歴史上の人物にも思い当たらない。

「あ、みかんジュースの出る蛇口…。なんてあるわけないか。」

東京の友達と話をしていた冗談を思い出す。

 いわく、静岡の蛇口からはお茶が、愛媛の蛇口からはみかんジュースがでるらしい。だったら、愛媛に住んだら飲み放題じゃん!なんて話をしていた。いやいや、まさか本当に愛媛に住むことになるとは思ってもいないって。

 

 ちょっとだけ、東京への未練を感じながら待っていると、おじさんから着信があった。

「駅着いたよー。駅出て右手に駐車場あるから20分以内に来てやー。車の横に立っとるけん。」

「う、うん。すぐ行くね。」

 電話を切って少し小走りで、指定された場所へ向かう。何で20分?


「おー、奈央ちゃんや。久しぶりやねー。」

「お久しぶりです!お世話になります!」

 久しぶりに会ったおじさんの顔は忘れてしまっていたけれど、向こうから声をかけてもらったので少し安堵しながら挨拶をする。


「そんなかしこまらんでええけん。大きくなったねー。じゃ、家帰ろか。」

「は、はい!お願いします。おじさんも急いでるみたいですし。」

「ん?あぁ、ここの駐車場やけど、20分内ならタダなんよ。急かしてごめんねー。」

 だから20分…。どうやら、地元の人しか分からない穴場的な駐車場のようだ。さっきの疑問に納得をつけ、おじさんの車に乗り込んだ。


「奈央ちゃん、愛媛は初めてやろ?東京の子から見たら田舎やけんなー。」

「いえ、そんなことないですよ。思ってたよりにぎわってました。」

 これはまぁ、嘘も方便という奴だ。

「ほうかー?やったら、JRよりも市駅の方が大きいけん、今度遊びに行ったらええわい。あ、市駅っていったら…。」

「あ、はい。駅の人に聞きました。私電のほうの市駅だって。」

「そうそう、あっちにはデパートも商店街もあるけん、若い子が遊ぶってったら、市駅やなー。」

 話だけ聞いてると、どうやらJRの駅よりも市駅とやらは規模が大きいそうだ。少しだけ確かめないといけないと思う。そして、そんな話をしながら車は、これから私がお世話になる家へと向かう。


 それにしても愛媛の人のしゃべり方って…。


今日の学び

 愛媛の人は語尾に「けん」をつける。

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