第2話 衣山ってどう読むの?

 JR松山駅。愛媛県の県庁所在地、の名を冠した駅。その県内で最も多くの乗客を迎えいれ、そして送り出す駅であるはずなのに。まさかの有人改札。そして、驚きはそれだけではなかった。

 駅の出口にはご当地のゆるキャラの像が置かれ、乗降客を和ませている。ゆるキャラの全国コンテストで何年か前にグランプリを受賞したキャラクターであったと思う。しかし、注目すべきはそこではない。


「ここ、駅前だよね…?人、少なくない?」

 少なくとも私がイメージしている駅前とは大きく異なっていた。高層ビルもない、繁華街というわけでもない。だだっ広いロータリーにタクシーがたむろっている。目立つ建物があるとすれば、バッティングセンターの看板らしき派手なネオンと、ボウリングができるのだろうアミューズメント施設の建物だった。東京に居たころは、雑居ビルに飲食店や居酒屋が何件も立ち並び、人混みにあふれている、そんな姿が駅前というものだと思っていたが…。

「ド田舎…、じゃん…。」

 駅前に降り立った最初の感想がそれだった。


「本当にこんなとこで暮らしていけるのかな…。」

 一抹の不安を感じるも、くよくよしていられない。私は今日の目的地を再確認する。お母さんから預かった親戚の家のメモを取り出して眺める。そこに書かれていたのは「」の文字。

「えっと、おじさんの家は…ころもやま?松山駅から電車が出てるって言ってたけど…。」

 母のアドバイスを思い返して、駅の路線図を見る。しかし、探せども探せども「衣山」の文字はない。

「あっ、私と同じ苗字の駅があるんだ…。いやいや、今はそれどころじゃなくて!」

 仕方ない。駅員さんに聞くしかない。と気を引き締める。


「すみませんー、ころもやま?って駅に行きたいんですけど、何時の電車に乗ればいいですか?」

改札に立っていた人とは違う駅員さんに声をかける。

「ころもやま…?あぁ、それって『』のことやないかな?」

「え、きぬ?ころもじゃなくて?」

『衣』という漢字をきぬって読むなんて、難しい地名だと思った。


「初めての人は、きぬやまは読めんよねぇ。で、衣山駅なんやけど、こっちじゃなくて松山のほうなんよ。」

「松山駅が二つある…、ってことですか?」

「そうそう、ここがJR。で、松山が私電のほう。みんなって呼ぶから、覚えとったほうがええねぇ。」

「ありがとうございます。で、市駅はどうやっていけばいいですか?」

「歩くと30分くらいかかるんよねぇ。で、衣山の方だと歩いたら15分くらいやないかな。どっちも結構歩かないけんけんなぁ。」

 位置関係はよく分からないが、ともかくこれで1つ分かったことがある。

「交通機関…、弱すぎない?」


今日の学び

 松山駅と市駅は別の駅。

 衣山はきぬやまと読む。

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