3人の赤ん坊

アール

3人の赤ん坊

ベビーシッターである彼女のもとに、ある日

依頼がやってきた。


依頼主はとある有名企業の社長から。


社長の邸宅はまるでお伽話に出てくるお城のようであった。


その中にある沢山のきらびやかな部屋の一室。


その中で社長と対面し、依頼内容をこう聞かされた。


「私と妻は共にこれから3ヶ月間、海外へと出張に出かけることになっている。

だからその間、我が子である3人の男の子の赤ん坊を見ていてもらいたいんだ」


「3ヶ月の間ですね?

分かりました。お任せください」


そう彼女は胸を張って答えた。


(久々の長期間の大仕事だ。気合を入れなければ)


そんな彼女の頼もしい姿を見て社長はうなづいたが、どこかその顔は不安げであった。


そんな彼の様子を見て、彼女はこう励ます。


「……ご安心ください。

私はこの道12年のプロです。

責任をもって面倒を見させていただきますよ」


しかし、その言葉に社長は首を振った。


「いや、別に君の腕を疑っているわけではない。

別のことで、ちょっと不安があってね」


「……不安、ですか?」


「ああ、そうなんだ。

実はね、3人のうち2人の赤ん坊が、いつも私が目を離した少しの間に、必ずをしているんだ。もう一人の赤ん坊だけはいつも大丈夫だというのに」


「はぁ。 怪我ですか?」


「うん、そうなんだ。

私が目を離した時に、なんだよ。

私と妻はそれを不審に思い、赤ん坊の寝ているベッドを捜索したんだ。

何か危険なものが落ちているかもしれない、とね。

だが何もなかった。だからますます不思議なんだ」


「なるほど、確かにそれは奇妙ですね。

……ところで、今は大丈夫なのですか?」


「ああ、それは大丈夫だ。

今は妻が子供たちを見ていてくれているからね。

……それからというもの、私たちは安心ができなくなってしまったんだよ。

私達夫婦のうち、どちらか一人が赤ん坊を見ていないと、内心落ち着かない。

だから、今回の長期出張も不安で仕方がない。

だからそれもあったベビーシッターを呼んだんだ」


「なるほど、そうだったのですか。

分かりました。

その怪我の件も含めて、私が責任をもって見ておきましょう。

だから安心して出張に出かけてください」


「ああ、頼んだよ」


それから、彼女は社長に子供部屋へと案内してもらった。


白い壁に囲まれた部屋の中央に大きなベッドが一つあり、そこには並んでスヤスヤと眠る3人の赤ん坊がいた。


「右からですわ。

そしてよく怪我をするのがアイとジェイですの」


面倒を見ていた社長夫人にそう教えてもらい、早速彼女は手帳に忘れずメモをする。


「子供の名前はアイ君とジェイ君、そしてケイ君。

そして目を離した時に必ず怪我をしているのが

アイ君とジェイ君、と」


確かに、アイとジェイの頭や腕には痛々しい傷がつけられていた。


まだ体が弱い赤ん坊だ。


少しの怪我でも、それは生死につながる。


再び、彼女は気合を入れた。


必ず、アイ君とジェイ君を私が守るのだ。


やがて、依頼主の夫婦は出張へ旅立って行き、本格的に彼女の仕事が始まった。


まず、彼女は子供部屋を掃除も兼ねて、危険物がないか捜索しておくことにした。


「少しでも不安要素は排除しておかなければ」


しかし、危険物は何も見つからない。


彼女は安心して、ホッと一息をついた。


「よかった。ベッドや子供部屋には何も危険物は落ちていない。

……じゃあどうして、アイ君とジェイ君は怪我をしているのだろう。

それもあんな、大怪我を……」


謎は深まるばかりであった。


彼女はできるだけ、二人から目を離さないようにと努力した。


自分が四六時中、怪我が起こらないように見ていればいいのだ。


彼女はとても頑張った。


だが、その頑張りにも限界があった。


トイレ、睡眠といった、生理的現象には敵わない。


必ず赤ん坊たちから目を離してしまう瞬間はできてしまうのだ。


そしてそんな時には社長の言う通り必ず、アイとジェイの体には怪我が出来てしまっていた。


擦り傷に打撲、鼻血など。


それこそ上がればキリがない。


その度に彼女は怪我の治療をし、原因を解明しようと徹底的に調べ上げた。


だが、相変わらず原因は分からない。


困りに困った彼女はある時、子供部屋にカメラを仕掛けることにした。


自分が子供部屋以外に行っている間、そこでは一体何が起こっているのか、これで見てやろうと言うのだ。


そしてある時、彼女はあえて別室へと待機し、しばらくして戻ってきた。


そしてもちろん、アイ君とジェイ君の間には異変が起こっている。


しかも、今回だけはケイ君も例外ではなかった。


なんと、3人揃ってベッドの上から転げ落ちていたのだ。


地面で頭を打ったのか、3人の頭には痛々しい大きなコブができており、大粒の涙を流して泣き叫んでいる。


彼女はすぐに彼らの頭を冷やしなどをして治療を施した。


そしてすぐに、カメラの記録を確認する。


「このカメラが正しく作動していれば、私が目を離した間、何が起こったか分かるはずだ」


そして映像が再生され始める。


その異変は彼女が別室へと離れてから、すぐに起こった。


なんと、突然スヤスヤと寝ていたはずのが目を開けたのだ。


そして横で寝ているアイ君とジェイ君を忌々しそうに見た後、自分の体をうまく動かし、彼らの体を足でベッドの外へと蹴り落とした。


そしてその後、再び寝たきりの体を器用に動かし、自分もベッドの下へと落ちることに成功。


そこで映像は終わった。


見終わった彼女は体をブルブル震わせながら犯人である赤ん坊を見る。


「……あ、貴方は、二人をベッドから蹴り落として殺そうとしたの?

そして自分に疑いの目が向かないよう、二人と同じくベッドから落ちた。

このカメラが無かったら危うく騙されていたところだったわ。

貴方、本当に赤ん坊………………?」


その翌日。


彼女は、ケイについての記録を調べ上げ、一連の犯行の動機を理解する事ができた。


何故なら3人の赤ん坊であるアイ、ジェイ、そしてケイのうち、ケイだけが孤児院から引き取られた養子であったからだ。































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