臆病
白銀 蓮(しろがね れん)
臆病
最近、なんだかとても幸せだ。
気付くとにこにこしていて、モノクロに見えていた世界が色づいて素敵に見える。
「重症だ……。」
ふ、と気付けば楽しいもの素敵なものを見るたびに、ある人を思い出していて、これがなんなのかは私は知っている。
学生じゃあるまいし、またこんな気持ちを持つだなんて思ってもみなかった。
考えてみれば、予感はかなり前からあった。
元彼のことを思い出して、苦しくなってベッドで縮こまって眠ることもかなり減った。
服装や体型を気にすることも増えた。
「どうしよう。」
今なら思いに封をして隠し込むことはできる。
きっと。
相手は年上だし、私のことは後輩にしか思ってないに違いない。
たくさん肯定してくれるのは、後輩を育てるためだ。
「あれ、おはよう。」
「あっ、はい、おはようございます。」
あの人の声がして反射的に振り返る。
いつもどおりの笑顔に、くらりと視界が揺れる。
「元気ないな、大丈夫か?」
「いえ、大丈夫です、元気です!」
私もいつもどおりを装って語尾を上げれば、不思議そうな顔をしたあと、そっかと小さく呟いた。
そういう気遣いが、辛い。
きりりと痛む胸とは裏腹に、にこにこの笑顔を貼り付けてトイレへ逃げ込んだ。
大丈夫、まだ間に合う。
多分。
自覚しつつある気持ちを押さえつけて、はあと息を吐く。
私とあの人とじゃ釣り合わない。
臆病 白銀 蓮(しろがね れん) @SiRoGaNeReN_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます