2:キ26900401-1
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西暦2030年4月1日 1600
雨の中、車は新天地に向け走っていた。耳に響く雨音。運転する父を横目に、助手席に座っている僕は何も考えず変わらぬ景色をボーっと眺めていた。顔も名前も分らない場所へ一人。不安は完全に払拭されたわけではない。
1900。集合一時間前、渋滞に巻き込まれることなく無事学校の正門に到着した。荷物を降ろして父に別れを告げ、歩道橋を渡って寮へ迎う。衣類が入ったトランク、日用品などが入ったリュックを抱え、川沿いの細い道をただひたすら歩いていく。傘をさそうと思ったが、面倒くさい。もう濡れていこう。
数十分歩き、ようやく目的地の寮に到着した。
『瀬戸寮』。見た目は趣のある旅館に近い。数年前不動産会社がこのマンションを手放した際、学園が買い取り改装して学生寮にしたらしい。が、お世話になる寮にしては何か違和感を感じる。
1階は1/3以上が大きなシャッターで占領されている。残りはセキュリティーばっちりの入り口。シャッターには何故か黒いしみがある。
ふと視線を変えると・・・
硝子の扉の前に一人の少年が、ポツンとつく入り口の明かりの下でスマホを弄っていた。僕より背が高く紺色の髪に鍔付きの帽子をかぶっていた・・・。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
一瞬目が合ったが、直ぐそらした。傘もささず突っ立ってる僕。雨音が響く。
「いつまでそこに立ってるんだ?風邪をひくぞ、俺の隣に来な。」
「では、お言葉に甘えて。」
重い荷物を抱え彼の隣に来る。
「君、名前は。」
「海部悠馬。推薦枠でここに来た。」
「そうか・・・。俺は村手巧。スポーツ推薦でこの学校に来たんだ。よろしく。」
お互い握手を交わす。
「そういえば、なんで俺たちここで待たされてんだ?雨だし、いっそのこと中に入れてもいいと思うが・・・」
「一番に来た時、寮の管理人からセキュリティーの装置に異常があったから中に入れないって言われたんだ。」
「そうか・・・」
「ところで・・・」
「?」
「あの書類に紛れて変な紙があっただろ?何を書いたんだ?」
「う~ん・・・あまり思いつかなかったから、さらっと日本刀って書いたよ。」
「日本刀かぁ・・・いいじゃないか。」
「小学校の時から剣道をしていたからね先生から木刀の持ち方も教わっていたから同じようなものかなって。あと他のやつだと扱う自信がない。」
「成程。俺は拳銃にしたんだ。もちろん日本刀にしようと思ったけど結構重たいっけ聞いたからね。」
「軽くて800g一番重いのだと1500gだからな。・・・ていうか僕、細かい注文つけすぎた気がするんだよなぁ・・・」
その後僕と巧は集合時間になるまで他愛ない会話を交わした。
・・・・・・
2000。入り口付近は人でごった返している。都道府県推薦枠で合格した47人とスポーツ推薦枠で合格した村手、合わせて48人が今日からこの寮で三年間共に過ごすことになる。
「集合時間になったのでこれから部屋をくじで決めます。あ、申し遅れました私はこの寮の管理人で平戸といいます。以後お見知りおきを。」
3人で一部屋のこの寮。気の合うやつと一緒になれたらいいのだが・・・。
一人ずつ部屋番号が書かれた小さな紙が渡されていく。ここが運命の分かれ道。
「じゃ、一斉に開いてください。」
そっと紙を開いた・・・。
”203号室”
「ん?お、俺と一緒じゃねぇか!」
「マジで!よかった・・・。」
一先ず新天地初の親友、巧と同じになったので安心。胸をなでおろす。さてあと一人はどこにいるのやら・・・。
「203号室の方いますか?」
向こうの方から僕たちを探す声。
「ここだぜ」
と、巧は返答する。白髪に黒縁メガネをかけている彼が歩いてきた。
「ここにいましたか。初めまして、私は丘山広樹といいます。倉敷から来ました。以後お見知りおきを。」
「海部悠馬。徳島から来た。よろしくね。」
「村手巧だ。スポーツ推薦で来たぜ。よろしくな。」
僕たちもそれぞれ自己紹介をする。
「んじゃ、三人揃ったとこだしお世話になるお部屋を拝みますかね。」
「そうですね。いつまでここにいても雨で無駄に体力が奪われていくだけですし。」
「荷物ずっと持ってるから手が息してない。」
「お前は荷物を置いたらまず頭を拭け。タオル貸してやるからよ。」
「すまないな。感謝する。」
「もういくのか?それなら渡しておこう。」
管理人の平戸さんに呼び止められ渡されたのは・・・
「カード?」
ある少年のお話 Kioku @kioku34ru4
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