1:キ26900315

 西暦2030年3月15日。

 少年は自分の部屋で静かに何か待っていた。

 「・・・・・・。」

 今日は受験した学校の合格発表だ。

 既に移動するための荷物の準備はできている。

 「都道府県推薦試験」。

 四教科の筆記試験と作文、面接により優秀な人間を選抜する試験。 

 私立だからできる独自の試験で、定員47人に対し今年は都道府県合計300人が受験したらしい。

 後日新聞で知った。

 しかも合格者は各都道府県一人ずつ。

 持てる力をすべて出し切った、うまくいく。

 そう言い聞かせつつも心配している。

 自分よりも上の奴がいるかもしれない。

 それでも人一倍努力して掴み取った受験資格だ。

 後悔はない。

 ダメだったのなら入れた荷物を元の場所に戻すだけの話だ。

 イヤホンを着け、お気に入りの曲を聴く少年。

 開けた窓からは春を告げる心地よい風が流れる。

 インターホンが鳴った。

 静かに立ち上がり、玄関の方へ向かう。

 扉を開けると郵便配達員が大きな封筒を持っていた。

 「ここに判子かサインお願いします。」

 いつもの場所に置かれている判子を取り出しグッと押すと、封筒を渡し郵便配達員は帰っていった。

 あの学校”三ツ葉中等学校”からだった。

 手に伝わるずしっとした重み、封を開けるとやけに書類が多かった。

 僕は確信した。

 一番上には通知書らしき紙がある。

 両手でしっかりつかみ一行ずつ丁寧に黙読する。

 そして・・・「合格」の二文字を見つけた。

 その瞬間僕は拳を突き上げようとしたが、すぐにやめた。

 大喜びしたいが、今は抑えよう。

 報告するために僕は仏壇の方へ向かった。

 真ん中に母の遺影が飾られている。

 「努力は無駄じゃない」それが母の口癖だった。

 小学校5年生の時、僕がこの学校の受験を決めた時期に母の肺癌が判明した。

 その話を聞かされた時、僕は息を呑み、妹は涙目になった。

 「大丈夫よ!こんな病気さっさと治しちゃうからね。」と母は僕たちを励ました。 

 数週間後母は入院した。

 その日から僕は合格を勝ち取るために努力した。

 わからない部分を先生に聞いたり、積極的に発言したり。

 母も頑張っている息子の為に必死に闘病した。

 だけど受験三か月前、突然容態が急変しその数日後この世を去った。

 あの時、母は笑っていたが、正直顔を見るのが辛かった。

 悲しみを乗り越えて掴み取った合格、天国にいる母に感謝しなければ・・・。 

 正座し、静かに手を合わせる。

 「新天地でも変わらず頑張るよ、母さん。『努力は無駄じゃない』その言葉通りね。家は寂しくなっちゃうけど、たまには戻ってくるよ。」

 立ち上がろうとした。

 が、無理だった。

 足が痺れた・・・。

 しばらくして、出張で横浜にいる父に連絡した。

 無事合格したこと、母に報告と感謝を伝えたこと、そして同封されていた書類について話すと父は「よく頑張ったな。おめでとう。書類関係は何とか間に合わせるよ」と返答した。

 電話を切ると自分の部屋に戻り、ベッドに突っ伏した。

 これから、親から離れて新天地での新しい生活が始まる。

 他の奴らと馴染めるかどうわからない。

 ボッチの可能性もある。

 「・・・・・・。」

 いや、ダメだダメだ!なんでマイナスな思考に走る?今は合格したことを素直に喜ぼう。

 そう言い聞かせた。

 仰向けになり目を閉じて大きく深呼吸する。

 「・・・・・・。」

 そういえば・・・かなりある書類の中に一つ・・・変なアンケートがあったな・・・。

 すぐに起き上がり、書類を漁ると赤いアンケート用紙が出てきた。


 『あなたのお望みの武器を書いてください』


 ただ、それだけ。

 やけに書く欄が大きい・・・。

 訳が分からなかったが、日本刀とさらっと書いた。

 小学校から剣道をしていたからという単純な理由だ。

 取り敢えず他の書類も書けるところ全て書き終えた。

 あとは父に託すのみ・・・。

 ダメだ・・・今は寝よう・・・合格してとにかく一安心だ。

 部屋に戻り再びベッドに突っ伏した。

 そして、深い眠りに落ちた。

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