エピローグ ある日の夢
☆
妻が子供を産んだばかりで入院中のことだった。
久しぶりに一人で寝た夜。
夢をみた。
やけにリアルな夢だった。
それは高校のクラスの同窓会で友達と話しているという他愛もない夢だった。
会場のホテルに僕は遅れて到着する。
夢の中の僕はなぜかまだ独身で、だから同窓会に少し期待している。
昔、付き合っていた女の子が来る、という話が友人経由で回ってきたからだ。
普段つけない香水なんかつけて、ちょっと高いネクタイなんかして、僕は会場に入った。
宴会はすでに始まっていた。
ずいぶん太ってしまったやつ、頭が寂しくなったやつ。ずいぶん派手な化粧で誰だかわかんなくなってるやつ。地味だったのにすごく綺麗になってるやつ。
僕はその中に、あの子がいないか、気にしないフリをして探している。
「光輔が来たから、改めて乾杯!」
なんて言われて慌ててジョッキを掲げる。
みんな歳をとってしまったけど、こうやって集まれるんだから幸せだ。
立食形式だから、皆があっちへ行ったりこっちへ行ったり。僕もローストビーフなんかを取って、旧友と昔話に花を咲かせていた。
その時、横から声をかけられた。
「……久しぶり。元気だった?」
懐かしい声に僕は顔をあげた。
切れ長な瞳、白い肌、頬に小さなホクロ。
歳を重ねても変わらない表情で彼女が笑った。
「君も来てたのか」
知らなかったよ、なんて嘘をつく。本当は彼女に会いたかったのに。
「君は変わらないね」
僕は言った。
「ありがと」
彼女は言った。
「君と付き合ってたのはもう10年も前か。懐かしいな」
「なによ。別れたこと後悔してるの?」
彼女が目を細めて笑った。
「うん。実はさ……」
僕が勇気を出して言った。
「実は、君が来るって聞いて、ちょっと期待して今日は来たんだよ」
彼女はじっと僕の目を見て、そして、照れたように笑った。
「ありがと。わたしもあなたに会えるかもって、少しだけ期待してたんだ。会えて嬉しい。昔のまんまだね」
「そうかな。もう中年のおじさんだよ」
「ううん。あの時のまんまだよ」
「じゃ、再開を祝して乾杯でもしよっか」
彼女はそう言ってグラスを傾けた。
夢はそこで覚めた。
たったそれだけの夢なのに。
目が覚めて、僕は少し泣いた。
完
思い出のハイドランジア ボンゴレ☆ビガンゴ @bigango
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます