第61話 神になってもヘタレはヘタレのままだった

 少しずつだが、力が溢れてくるのが分かる。きっと皆んなが上手くやってくれているおかげだ。


 後は僕が、皆んなに頼んだソールの復活を信じさる事ができれば、相当な神格を得ることが、できるだろう。


「サマエル、決着を着けさせてもらうぞ!」


「……」


 もはやサマエルに、僕の言葉は届いていないようだ。


 ヤツにも色々と聞きたかったが、こうなってしまっては是非も無い。


 僕は上空に舞い上がり、雷を呼びスパークさせた。


 雷鳴が響き、空が煌々と輝く。


 戦神であり、雷神であったソールの復活を匂わせるには、充分な演出だ。


 そして、それを裏付けるかのように、神竜ファフニールの咆哮が響く。


 感じる。


 人々の想いが僕に届く。


 戦神ソールを、僕を信じる力が、僕の存在を大きくする。


 自分が自分と思えないぐらいに溢れ出るエナジー。


 勝てる。


 負ける要素はない。


 僕は、全ての力を込め雷撃を放つ。





「ミョルニル!」




 雷雲が立ち込め、この世のものとは思えない轟音が鳴り響く。


 はるか上空から撃ち落とされたその巨大な雷撃は、ひときわ強い輝きを放つ。


 天と地を繋ぐかのような一筋の光が、サマエルを飲み込み、あっという間に消滅させた。


 ミョルニルによる光の筋はその後もしばらく消えることなく、神々しくも幻想的な光景を作り出した。



 ようやく終わった。


 もうサマエルの存在は感じられない。


 僕は、サマエルを倒すことができた。



 僕はルナの元へ戻った。


「「ハルト!」」


「ただいま」


「あれ、やっぱり、あんたなのよね」


 光の筋は帝都からでも確認できた。


「そうなんだけど、あれは皆んなの力だ」


「皆んなの力?」


「皆んなが、ソールの復活を信じた事で、僕の力が強くなったんだ」


「す……凄まじいね」


「でも、邪神は倒せた。一連の件の黒幕は皆んなのお陰で無事、倒す事ができたよ」


「ていうか、あんたまた髪の色変わってるわよ」


「えっ……マジか」


「あ、本当だ、真っ白になってる!」


「とりあえず、皆んなの元へ帰りましょ。

色々聞きたいけど、その時にね」


「そうだね」


「ああ、分かった」



 僕たちは、リスティンでロランと合流し、リマケに向かった。


 ことの顛末を報告すると、城内が割れんばかりの歓声に包まれた。


 リスティンもリマケも解放され、3大魔王の2人を討伐する事に成功したのだ。


 世界平和が訪れたと言っても過言では無いのだ。


 僕たちはリマケを後にし、グーテンベルクに帰還した。 

 


『『ただいま』』


「皆様お疲れ様でした」


 城ではディアナが僕たちの帰りを待っていた。


「あれ? 他の皆んなは?」


「ハルトの布教活動に向かったままですよ」


「あ、そうか……」


 決着はあっという間だったので、皆んなまだ、戻っていないようだ。


「ハルト、あれは何だったのです?」


 サマエルの件は皆んなに話していなかった……。


 これは大目玉をくらってしまう。


「と、とりあえず皆んなが戻ってから話すよ!」


「そうだな、私もじっくり聞かせてもらおう」


「だな、なんか隠れてコソコソやってたみたいだしな」


「いや、コソコソなんて……」


「ベルゼバブが、ルナはハルトの伴侶とか言ってた件も聞かせてね」



『『え』』



「そ、そ、そんなこと言ってたかしら……」


 珍しくルナが動揺している。

 

「まあ、皆さんお疲れでしょうし、今日はドリー達が帰ってきたら、王都に吉報を知らせに参りませんか?」


 ディアナと目を合わせられない……。


「そ、そ、そうだよな!

3大魔王の2人が倒された歴史に残る日なんだからな!」

 

 皆んなの視線が冷たかったが、ドリー達の帰りを待って、僕たちは王都へ向かった。



 メディア王も、バイルス、ステルも僕たちの知らせに目を丸くしていた。帝都陥落の絶望的な知らせが一転し、魔王討伐、帝都奪還に成功したのだから当然だ。


 この知らせを受け、王国では祝祭が執り行われることとなった。


 これで表立って人類と敵対する魔王は居ない。


 世界に平和が訪れたのだ。 



 ——しかし、世界に平和は訪れても、僕にはまだ、平和は訪れていなかった。


 ルナ、エイル、ロラン、レヴィ、ディアナ、ドリー、カル、ラグイン、ロック、ファフ。


 ここに居る皆んなに事情を説明しなければならない。


「まず、教えてくれ、戦神ソールとハルトは同一人物なのか?」


 ど直球で確信に迫るロラン。


「同一人物なのかと、言われればそうなのかも知れないが、僕はハルトとしてハルトとして育ってきた人間だ。


その人間の前世が、たまたま戦神ソールだっただけだで、能力を引き継げただけだよ」


「んーそれって、やっぱりハルトが神様ってこと?」


 エイルの質問はもっともだ。


「種族で分けるなら、神になるのだと思う」


「ま、まじかよ!? お前神様だったのか!」


 レヴィが驚くの分かる。僕も最初は驚いた。


「ハルがソール様で、ソール様がハル……」


 ドリーが混乱するのも分かる。


「それで、ハルトは今後どうされるのですか?」


「どうされるって、どういう意味だ、ディアナ」


「その、フレイヤ様と同じように、神界で暮らされるのですか?」


「いや、僕はグーテンベルグで、これまで通り皆んなと暮らしていくよ」


「本当か! ハルト!」


「こらカル、ハルト様だ!」


「今後もご領主として、私たちを導いていただけるのですね……」


「当然だ、力を貸してくれよ、カル、ラグイン、ロック」


「「「はい」」」


「まだ話は終わってないわよハルト、あいつは何者だったの?」


「そうだな、もっと皆んなに早く話すべきだった……今日僕が戦った相手はサマエル、邪神だよ」


『『邪神!?』』


「マイオピアの襲撃から、王国、聖皇国、帝国での魔族の暗躍、全てサマエルの仕組んだことだったんだ」


 皆んなは、驚きの色を隠せない。


「なぜ、そんな大事なことを黙っていたの? 私たちが信用できなかったの?」


「違う、僕は怖かったんだ」


『『怖かった?』』


「サマエルのことを話すと、行き着く先は、ソールとしての記憶を取り戻すことに繋がると僕は考えていたんだ」


「それの何が怖いの?」


「ソールとなった時、僕が僕でいられる確信がなかった」


『『ハルト……』』


「僕は、ソールとなってみんなを忘れたくなかった、

だから邪神にも、ソールにも触れないようにしていた軟弱な男なんだよ」


 みんな押し黙っているので続けた。


「ファフには耳が痛い話かもしれないが、

僕はソールの復活よりも、皆んなのことを忘れたくない気持ちの方が強かった。

僕には世界の行く末よりも、皆んなと過ごした時間の方が大切だったんだ」


「アーサー様、いえ、ハルト、そんなことはありませんよ」


「ファフ……」


「ヘタレのお前らしい、理由だな」


「レヴィ」


「私は、それでも水臭いと思っているぞ、これからはそんな悩みも、1人で抱え込まないでくれ」


「ロラン」


「私は、素直に嬉しいよ……ハルトがそんなにも私たちのことを想っていてくれたなんて」


「エイル」


「私も、嬉しい、ハルのその弱いところ好きだよ」


「ドリー」


「なんでもできるのに、自分のこととなると器用できませんね、ハルトは」


「ディアナ」


「ありがとうハルト、あーしこれからも頑張るよ」


「カル」


「ハルト様、私たちもあなたなしでは……」


「ラグイン」


「まだ、なんの恩も返せていませんからね、いなくなられては困ります」


「ロック」


「ハルト、あんたと出会えてよかったわ……そして愛しあえて」


「ルナ」



 やっと僕にも平和が訪れたようだ。



「まあ、感動的な理由だったけど、黙っていた事には変わらないわ」


「え」


「そうだな、それ相応の覚悟はしてもらうぞ」


「えええ」


「とりあえず、朝まで正座でお説教ですね!」


「は……はい」


 ソールの記憶を思い出しても、僕は何も変わらなかった。

 強大な力を手に入れたのかもしれないが、それは僕の本質とは関係ない。


 ヘタレと呼ばれた僕は、異世界転生して神になってもヘタレなままだった。




 —————————————


 逢坂です。


 ご愛読ありがとうございました。

 本編は完結です。


 不定期になりますが、

 ヒロインそれぞれのエピソードを掘り下げたお話を書いていく予定です。


 あと、こんなエピソードが読みたいってリクエストがあれば可能な限りお応えします。



 逢坂や本作を応援してやってもいいぞって方は、一言でもいいので、レビューやコメントを残してただけると凄く励みになります。


 これからもよろしくお願いします。


 新作公開しました!

『魔法学園でドSな彼女達のオモチャな僕は王国の至宝と謳われる最強の魔術師です』

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054903431470

 読んでいただけると嬉しいです!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強チートを手にしたヘタレの異世界充実ライフ? 逢坂こひる @minaiosaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ