第60話 ハルト対サマエル

 僕はこの世界に来て、いや、波瑠悠人はるはるととして、はじめて怒りを露わにしている。


 サマエルにではない。


 不甲斐ない自分自身にだ。


 一連の事件は繋がっていた。その黒幕はサマエルだと分かっていた。だが僕は、それについて何の対策も講じなかった。


 サマエルと対決して『話せるやつ』もしかしたら『分かり合える』と油断し、リスク回避だけが取り柄だった僕が、何の対策も行わなかったのだ。


 やりようはいくらでもあった。


 だが、僕は何もしなかった。


 ソールの記憶を取り戻すことすら……。



 僕は今まで、ヘタレである自分を肯定してきたが、はじめて否定する。


 既に僕は、ヘタレでいられる立場ではなかったのだから。


「サマエル、お前を倒すぞ」


「強気だね、ハルト、ソールの力は、そんなにも凄いのかい?」


「ソールは関係ない、この世界に生きる1人として、お前の行いを僕は許さない」


「いい目だね! 待っていたよこの時を! さぁ、やろう、早くはじめよう!」


「フレイ!」


 僕はフレイに命じサマエルに、攻撃を加える。

 サマエルも無限武装で、それに応じる。


 因みに無限武装は、サマエルが大量の武装を顕現させるスキルのことだ。僕が便宜上、勝手に命名した。


 レーヴァテインとクレイヴソリッシュはルナに預けたままだが、僕にはソールの武器がある。


「ライトニングセイバー」


 戦神であり、雷神である、ソールのスキルで創造した雷の剣だ。


 僕の魔力が続く限り、無限に創造できる。


 僕は慣れ親しんだ双剣スタイルで、サマエルに仕掛けた。


 ライトニングセイバーで、サマエルを斬りつける、サマエルは自慢の盾で、ガードする。


 たが、結果は今までと同じではない、レーヴァテインとクレイヴソリッシュをもってしても、破壊に苦しんだサマエルの盾が、紙切れのように斬り裂かれる。


 だが、サマエルは別段驚いた様子も見せず、すぐさま新しい盾を顕現させる。


 ならばと、僕はライトニングセイバーでサマエルの盾を突きかかる。


 サマエルは盾を幾重にも顕現させ、直接的なダメージを避ける。


 僕とサマエルの攻防は絶対的攻撃力と絶対的防御力のぶつかり合いだ。

 

 しかし、このままでは分が悪いと思ったのか、サマエルは発動点コントロール魔法など、手数を増やし、僕を引き離しにかかった。



「ハルト、凄いよ……僕の自慢の盾が紙切れのようだよ、なんだいその力は! ワクワクしてくるね!」


「そのままあっさり倒してやるよ」


「あはは、確かにこのままだと、あっさり倒されてしまうよね!

でも、これ見てよ!」


 サマエルが取り出したのは、邪神の魔石だった。


「神が魔石を使ったらどうなるんだろ? 前から興味あったんだよね……」


「お前まさか……」


 サマエルは邪神の魔石を自らに、埋め込んだ。


「がはぁぁぁぁぁぁ!」


 サマエルの魔力が跳ね上がる。

 

「厄介な奴が厄介な力を……」

 

 僕は無意識のうちに言葉を発していた。


 邪神の魔石を取り込んだサマエルは、見た目も邪神の呼び名に相応しく変化した。


 特筆すべきは、腕が2本増えた事だ。


 従来の盾を装備する2本の腕に、刀を装備した2本の腕。


 禍々しいことこの上ない。


「……」


 サマエルが無言で仕掛けてきた。おしゃべりなヤツにしては珍しい。


 僕はその動きを最早視覚で捉える事ができず、やつの存在を頼りに応戦した。


「スパーク!」


 僕は自身にスパークを掛け、雷撃の防御を作り出す。


 その雷撃をものともせず、サマエルは攻撃を繰り出す。


 サマエルの刀を振り払い、斬撃を加えるも、盾に防がれてしまう。本当に厄介だ。


 サマエルはあらゆる面に置いて規格外の存在となってしまった。


 今まで防御専門だったのが嘘のように攻撃も鋭く、フレイのサポート無しでは僕もキツい。


 僕たちの攻防で荒れ狂う海。


 僕の判断は正しかった。地上で戦っていたらどんな結果になっていたのかと、想像するだけでも恐ろしい。


 このままでは、これまでと同じく、決着がつかない可能性がある。


 だが、そうはさせない。

 今日、ここでサマエルを仕留める。


 しかし力は互角だ、どうすればいい……。




 ——僕はフレイヤの話を思い出した。


「神格ってどうすれば強くなるんだ?」


「信者の数を増やすとか、目立つ活躍をするとか、存在感を強くする事ですかね……」


 ————


 サマエルと僕の力は互角だ。


 だけど、僕とサマエルには決定的な違いがある。


 それは仲間だ。


 僕には、愛すべき人、守るべき人、心を通わせる仲間がいる。


 もう、1人で戦おうだなんて思わない。

 皆んなの力でサマエルに勝つ。




『エイダ、聞こえるか?』


『ハルトくん……どうしたの?』


『頼みがある、戦神ソールが復活した、皆んな空を見てくれと、触れ回ってくれ』


『え、何それ?』


『事情は後で話す、皆んなと手分けして、なるべく多くの人に伝えて欲しい』


『わ、分かった』



『シェラ、僕だハルトだ』


『は、はい! ど、どうされたですか?』


『頼みがある』


『喜んで!』


『まだ、何も言っていないが……まあ、いいか、実は戦神ソールが……』


 シェラにも同じように伝えた。



『ロック、ハルトだ』


『はっ、ハルト様! 帝国の状況は如何ですか?』


『上手くいっている、それより頼みがある』


『さすがですね、何なりとお申し付けください』


 ロックにも。


『カル、ハルトだ』


『ハルト! さま……』


『念話の時ぐらい、様はいいよ、それよりも頼みがある』


『うん、何でも言って』


 カルにも。


『ラグイン聞こえるか、ハルトだ』


『ハルト様、心配しておりました戦況は?』


『問題無い、それよりも頼みがある。命令ではない』


『な、何なりと!』


 ラグインにも。



『ドリー、ハルトだ』


『ハ、ハル、話していても大丈夫なの?』


『長くは無理だ、頼みがあるんだ』


『私達の仲で遠慮は無用よ』


 ドリーにも。



『ディアナ、ハルトだ』


『どうされましたか? ソール様』


『な、何故それを?』


『フレイから聞きました』


『やっぱり、そうだったのか……』


『はい、状況は承知しております。お任せください』


『頼む』


 ディアナにも。



『レヴィ、ハルトだ』


『うわっと、いきなりビックリするじゃねーか』


『すまない、無事か?』


『誰にもの言ってんだ? 無事過ぎるぜ』


『流石だな、実は、頼みがあるんだ』


『おう、何でも言ってくれ』


 レヴィにも。



『ロラン、ハルトだ』


『ハ、ハルト!』


『無事か?』


『ああ、おかげ様でこちらは片付いた。そっちはどうなんだ?』


『後一歩だ、だから力をかしてくれ』


『何でも言ってくれ』


 ロランにも。



『エイル、ハルトだ』


『ハ、ハルト、突然消えちゃったけど、大丈夫?』


『ああ、今のところ大丈夫だ。でも力を貸して欲しい、頼めるか?』


『うん、何でも言って』


 エイルにも。



『ファフ、僕だアーサーだ』


『ア、アーサー様……思い出されたのですね』


『ああ、長い間待たせてしまった。すまなかった』


『いえ、大丈夫です……嬉しいです』


『頼みがある、聞いてくれ』


『もちろんです』


『竜と化して、僕の意を世界に示してくれ』


『神格が必要なのですね、承知しました』


 ファフにも。



『ルナ、僕だハルトだ』


『ハルト、無事なの?』


『今のところな、でも力が足りない……

ルナの力を貸してくれ』


『なに水臭いこと言ってるのよ、殴るわよ?』


『いや、それは……』


『時間が無いんでしょ、はやく言いなさい』


『ありがとう、ルナ、勇者として戦神ソールの復活を広めてくれ、そして、空を見上げるように促してくれ』


『分かったわ、負けたら許さないからね』


『約束を果たす前に、負けられるはず、ないだろ』


『いい返事よ』



 この世界でたくさんの人に出会い、心を通わせた。


 日本ではできなかったことだ。


 世界が変わったのではなく、僕が変わったのだ。

 まあ、人間じゃなくなったし当たり前といえば当たり前だ。

 でも、日本でも手を差し伸べてくれている人はいた。


 勇気がなかった。


 あらゆる面で僕はヘタレだったのだ。



 準備は整った。


 後は、僕がサマエルを倒すだけだ。



 ————————


 逢坂です。

 ここまで読んでいただいてありがとうございます。


 いかがだったでしょうか?


 逢坂や本作を応援してやってもいいぞって方は、

 一言でもいいので、レビューやコメントを残してただけると凄く励みになります。


 これからもよろしくお願いします。


 次回更新は3/15になります。


 次回更新までの間は「最強カップルの異世界イチャラブ無双」なども読んでいただけると嬉しいです。





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