第59話 ルナ対ベルゼバブ

 ベルゼバブから伝えられた衝撃の真実。

 

 ルナが魔族の頂点、ルシファーの子孫だと?!


 真偽の程は分からないが、戦闘中にこんな爆弾発言……ルナが動揺していなければいいが……。



「だから、何なの? あんたは私に忠誠でも誓いたいの?」


 全く動じている様子はない。


「忠誠? そうだね、君があの男と同じ過ちを犯さず、素晴らしい魔族の世を作り出してくれるのなら、忠誠ぐらい誓ってやるさ」


「残念ね、それは出来ないわ。

魔族が人と平和に共存したいなら、それはそれでいい。


でも、侵略すると言うのなら討つわ」


「フフフ、勇ましいところは、あの女そっくりだ」


「あんたね、さっきから含みのある発言ばっかりしているけど、そう言うの流行んないからやめなさい、苛立たしいだけよ」


「おっと、これは失敬。

私がそう呼んでいただけで、隠しいるわけではないのだよ」


「そう……」


「そうだな……確かセレーネ、王国の王女だった女だよ、君と瓜二つだ」


 もう一丁、衝撃の事実だ……。


 ルナは王家の血も引いている。

 だからディアナとそっくりなのか……。


「もう、お喋りは終わりかしら?」


「私の話を聞いても、眉ひとつ動かさぬか……。

素晴らしい胆力だな」


「私は勇者、私が背負っているのは人々の希望、あなたごときに惑わされはしないわ」


「あははは! では続きをはじめようではないか!」


 ベルゼバブが赤黒いモヤのかかった光に包まれる。


「いくよ」


 ベルゼバブは目にも止まらぬ速さで、突撃した。

 ルナは回避できず、グラムの腹でそれを受け止めた。


 見ているだけで力が入る、力と力の押し合いだ。


 ルナを包む青白い光が輝きを増す。

 ルナが、ベルゼバブを押し返した。


 だが、信じられないことに。


 聖剣グラムが砕けてしまった。


「フフフ、聖剣が君の力に耐えられなかったようだね、勝負ありかな」


「ふざけないで、聖剣だけが私の力じゃないのよ」


 ルナを包む青白い光がさらに輝きを増し、ルナが仕掛けた。これまでにも増して素早動きで、あっという間にベルゼバブの懐に入り込み、ゼロ距離で光魔法を放った。


「ぐっ!」


「まだまだよ!」


 ルナはその後も四肢に光魔法をまとい、半ば格闘戦のような魔法戦を繰り広げた。


 戦いは、ルナが押しているように見える。だがベルゼバブの表情には、まだまだ余裕が感じられる。


 時間が経つにつれベルゼバブは、ダメージを受けなくなり、ルナの傷が増えていった。そしてついに、ルナは肩で息をしはじめた。


「勇者よ、ソールと交代した方がいいのではないか?」


「ふざけないで、私はまだ負けてないわ」


「だが、もう勝負は見えている」


「ほざいてなさい!」


 ルナが仕掛ける、だがベルゼバブの言う通り、動きにキレがなくなり、このままではジリ貧だ。


「聞き分けのない子だね」


 これまで防戦一方だったベルゼバブが攻勢に転じる。

 無限とも思える突きの連撃がルナを襲う。


 それでも流石ルナだ、紙一重でベルゼバブの突きを避けている。

 

 かつて僕はルナに、攻撃のシャープさが足りないと言われた。速さやパワーだけを上げても、当たる方が難しいとまで言われた。


 ルナの根底には、積み上げられた技術があるのだと改めて認識した。


 それと同時に、それが人間の強さだと知った。


 もともと強い、魔族や神はそこまでの鍛錬を必要としない。


 まあ、今はルナも人間ではないが、人間だったからこそ辿り着けた高みなのだろう。


「フフフ、虫の息だと思っていたのだが、存外やるね、流石ヤツの末裔だ!」


「だからそれは、関係ないわよ、私は私、あなたは人間の私に討たれるのよ」


 半分は神様だけどね。


 ベルゼバブがギアをもう一段階上げた、それでもルナを攻めきれない、聖剣がなくてもルナは勇者だった。


 だが、時間が経てば経つほどルナが不利だ。それは蓄積されているダメージで見て取れる。


「勇者よ、君は本当にすごいね! 驚愕だよ! この姿は美しくないから嫌だったんだけどね……でも、そうも言ってられないようだね……」


 ベルゼバブの魔力が膨れ上がる、どうやらヤツは変身できるタイプの魔族だったようだ。もう1人で戦うとか言っていられない状況だ。


「エイル、ここを頼めるか」


「え、ハルトは?」


「流石に、これはまずいだろ、加勢する」


「うん、わかった」


「ダメ! 来ないで!」


「ルナ……」


「あんたには、ゲストがいるのでしょ、そこで見てなさい」


「しかし……」


 変身した魔王に丸腰なんてあまりにも無謀だ……。


『我が主よ』『主様よ』


『『我らをあの娘に』』


『え、ま……マジか、いいのか?』


『あの娘なら我らを使いこなせるはずじゃ』


『ああ、我が主よりも上手くな』


『なんか複雑だなぁ……』


『さあ、早くするのじゃ』


『うん、分かった』


「ルナ! 受け取れ!」


 レーヴァテインとクレイヴソリッシュをルナに投げた。


「こ……これは……」


「ルナなら使えるはずだ!」


「分かったわ、ありがとうハルト」


 ルナが2振りの神剣を手に取ると、僕が使っている時よりも、エナジーに溢れてた刀身が顕現した。本当に複雑だ……。


「うそ! なんで!」


 エイルは純粋に驚いている。


「僕に使えて、ルナに使えないわけがないんだよ」


「私、ハルト専用だと思ってた!」


「フレイヤだって使ってたろ」


「そうだけど……女神様じゃん……フレイヤ様は」

 

 ルナも女神様だよとは言えなかった。



 そうこうしている間に、ベルゼバブの変身が完了した。



 まあ、見た目は普通に蠅男だった。


 グロい……元がまあまあのイケメンだっただけに、凄く残念だ。



 見た目はアレだが、魔力は桁違いだ。



 だが……。



「勇者よ、一気にカタつけさせてもらうよ!」



 数倍にも膨れ上がった魔力をたてに、突撃する。


 ルナもそれに応じた。


 勝負は一瞬だった。


 ルナは、ベルゼバブを三叉槍ごと真っ二つに斬り裂いた。


「な……何故……」


 その状態でも喋れるとは恐れ入る。


 だが、それがベルゼバブ最期の言葉だった。


「ベルゼバブ様!」


 ウァプラがベルゼバブに駆け寄ったが、すでに事切れていた。


「勇者よ、私を見逃してはくれませんか?……」


「別に構わないわ」


「ありがとうございます。

では、お礼に帝都の催眠を解いて差し上げます。

ついでに兵も引かせていただきます」


 ウァプラはルナに一礼をし、ベルゼバブの亡骸を抱き、闇に消えた。

 帝都の催眠はベルゼバブによるものだと思っていたが、ウァプラだった。

 思わぬ強敵かもしれない。


 ウァプラの言った通り、帝都の催眠が解かれ、大歓声に包まれた。

 住民たちは催眠状態にありながらも、何が起こっているかは把握していたようだ。



 ともかく3大魔王の2人が時を同じくして討たれた。

 完璧に歴史的に残る1日だ。


 もう敵対している魔王は1人を残すのみ。


 世界平和まであと一歩だ。




 だが、まだ終わってはいなかった。


「ハルトぉぉぉぉ!」

 

 ついにサマエルが姿を現した。神衣を身にまとい、あたり一帯を吹き飛ばすほどの魔力球を作っていた。


 僕はサマエルの元へテレポートし、サマエルを捕まえさらにブルーオーシャン上空へテレポートした。


 サマエルにより放たれた魔力球で、ブルーオーシャンの森は消滅した。


「サマエル、貴様……」


「だから言ったろ、今度は最初から本気だって」


「そうかよ!」


 僕は渾身の力でサマエルに体当たりし、海を目指した。


 あんなパワーで戦われると、大地がなくなってしまう。


 僕も相当パワーアップしていたようで、すぐ海についた。


「ハルト……君はついに覚醒したみたいだね」


「ああ、そうらしいな」


「戦神ソール……まさか、あなたと戦える日が来るとは!」


 今回のことは僕がサマエルを倒せなかったことに起因している。


 今日、この場所で確実にサマエルを仕留める。


 これが僕に課せられた使命だ。

 


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