最終話「転生したら、スタート地点がよかった件」
夏休み、7月も後半でまだまだたっぷり時間がある。
宿題はミリも手を付けていないが、まだまだぜんぜん大丈夫。
リビングのソファに腰を下ろし、目の前のTV、そしてゲームハードをスイッチオン。
親戚のお下がりでもらった古いゲームハードから、すぐさまディスクの鈍く、静かな回転音が響き、しばらくしてタイトル画面が表示される。
俺が大好きな、勇者やるやつの4だ。
「……またゲームやってるのお兄ちゃん、今年は中学受験でしょ」
「うるせーな、まだまだ夏は始まったばかりなんだよ」
背後から妹の声。
そして冷蔵庫のバタン、バタンという声。
「それにさ、いつもいつもその古いやつばっかやってない?」
「レトロゲーにはロマンがあるんだよ。なんかスゲー懐かしい感じがするんだ」
「ふうん」
「ポチポチちくちく、フィールドうろうろするのも大好きだしな」
「まあ私もゲームはやるより横で見てるほうが好きだから、人それぞれだよね」
そうしていつものように、一緒になって画面を覗き込んでくる。
人それぞれ、か。
4年生のくせにずいぶんませたことを言うな。
・
・
・
それからすこしして、俺はこのゲームをクリアした。
エルフの恋人が人間に殺されたことで復讐者となった魔王。
その恋人をよみがえらせ、魔王も含めて晴れてめでたしめでたしというところまでの完全クリアだ。
「よかったね。魔王も、この人もさ」
「うーん……安易に生き返らせるのは俺は反対だな」
「なんで? ハッピーエンドのほうがいいじゃん」
「まあ、そこは否定しないけど」
「大切な誰かのためにがんばって、最後にその人に再会できて……そのほうが幸せでしょ」
「でも、がんばってがんばって……それでも結局報われずに終わったヤツだって……あれ?」
なにか、そういうヤツを知ってる気がする。
大切な誰かのためにと、もう戻らない誰かのためにと。
世界のため、自分のため、そいつのために。
戦い続けて、殺して殺して殺し続けたヤツのことを。
「……あ、あれ……なんだこれ……」
なぜか、そう気づいたとたんに、
知らないはずの記憶が、あふれてきた。
知らないはずの景色が、走馬灯のように。
しかしそれらは、思い出すとともにぽろぽろと
後には、なんだか長い夢をみたな……という感覚だけ。
しかし、
しかし。
俺は気付けば、涙をぼろぼろと流していた。
――その頭を、抱えるように、つつみ込むように温かい感触が。
「がんばってきたんだね、お兄ちゃん」
「その……なんで俺泣いて……」
「私は、最初から知ってたよ。産まれたときのほんとの最初から。神さまがくれたプレゼントなのか、誰かの願いのおかげなのかはわからないけれど」
――望む世界へと
願い、想いは根源的な魔法であり、それは強ければつよいほど意味を成す。
『火葬』を、『葬送』を、送った者の願いがつよければそれはより意味を成す。
ほんとうにささやかな、ちいさな『奇跡』として。
「私にとっては、いままでも、これからも。
お兄ちゃんはずっとずっと……勇者だよ、勇者だったよ」
しかしそれは、彼にとってはかけがいのない『
「転移者に優しくない世界で、何故か俺だけスタート地点がよかった件」完
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これにて師匠と、彼の旅路はひとつの区切りとなります。
ここまで本作をお読み頂き、まことにありがとうございました。
Web小説、そしてそもそも小説というもの自体初めてで、書けるかどうかという実験のつもりでしたがなんとか完結できました。
書き始める前は1話ぶんすら書けないだろうと思っていましたが、気づけば幕間など含め301話。
完結記念に、↓のお星さまをいただけるととても励みになります。評価をいただけるとその数がそのまま、読まれる数に直結いたしますので、ぜひお支援いただければm(_ _)m
そしてご意見・ご感想などコメントもお待ちしております。
しばらくエネルギーチャージしたあと、新作や本作の追補編などでまたがんばる所存です。
なんとか1本は書けたので、次はきちんと流行や要素をサーチしないと……
ちなみにカクヨムでは完結後もお話を追加できるので、追補編はその形式になると思います。
それでは、またどこかの作品でお会いできれば幸いですm(_ _)m
転移者に優しくない世界で、何故か俺だけスタート地点がよかった件~超レア職業「精霊術師」でがんばるようです~ しびれくらげ @SIG0808
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