物語に負けない荘厳な文体と、柔らかなディティールの心地よさ

読み聞かせの形で語られる、とある竜と子供のお話。そして、ひとつの国の成り立ちの物語。
どっぷり濃厚な異世界ファンタジーでした。驚いたのは、おとぎ話・昔話風の体裁でありながら、全然おとぎ話じゃないところです。
書かれているもの自体はおとぎ話のはずなのに、でもそこに自分の見出している〝面白さ〟の種類が、明らかにおとぎ話のそれとは違う。特に中盤以降に顕著だった印象です。
とある山の頂、竜と子供(の幽霊)だけの物語だったものが、やがてひとつの村へと移り、そして国規模の話へ。この空間と時間の連続性。時の流れや土地の広がりを描き出すことで、細部を保ったままに描き出される世界の全体像。
この、物語世界の拓けていく感覚。異世界ファンタジーの魅力というのは様々ありますけれど、そのひとつとしてやはり「世界そのものの面白さ」というのが挙げられると思います。短編で表現するはなかなか難しいその魅力を、でもしっかりと味わわせてくれる。とても上品で良質な物語でした。