ショートショート Vol13 二人だけの観覧車
森出雲
二人だけの観覧車
平日の昼間、突然の君からのデートの誘い。
「あんまり良い天気だから、ドライブに連れて行ってよ」
まるで君は、僕が授業をサボっていることを見通しているようだった。
「いいよ、どうせ休講だから時間も有るし」
それでも僕は、君に嘘の言い訳をする。すると君は電話の向こうで、小さくふふふっと笑ったね。
僕たちは市街を抜けて、バイパスから海に近い湾岸道路に入った。窓を開け潮風を浴びながら、しばらく走ったところで、君は何かを見つけて僕に言った。
「アレ、何? あの看板」
それは潮風にさらされた古い遊園地の案内看板。
「あんなところに遊園地なんてあったっけ?」
「行ってみようよ。平日だからきっと空いているよ」
僕は頷き、ハンドルを左に切った。
さほど広くも無い駐車場には、数台の車。僕は、入場口に一番近そうなところに車を停めた。白い駐車線は、所々が剥げて途切れている。
「誰もいないみたい。貸切だね」
君は、そう言って両手を青空に突き上げるように伸びをした。
166センチ。モデルと言ってもいいくらいスタイリッシュな君は、デニムのミニと白いタンクトップ。髪は少年のようにショートカットで、彼女が言うところの『お母さんのお腹の中に忘れてきた」 スリム? なバスト。それらがみんな太陽の下で輝いている。
自動販売機で決して高くは無い入場券を買い、場内に入った。
BGMも人の歓声もない。ひっそりとした遊園地。
「やっぱり貸切っ」
僕たちは、いくつかのアトラクションを覗いてみたけれど、係員もいなくて何一つ楽しむことが出来なかったけど、けっして不満足って訳でもなかった。気持ちの良いくらいの晴天と貸しきられたような遊園地の雰囲気を楽しんでいたからだ。
「あ、ほら観覧車。誰かいるか見てくる」
君は小走りで一段高くなった観覧車の乗り口に走っていく。僕はその後を 『また誰もいないかも』 と思いながら君の後を追う。
僕が観覧車の下に来た時、君は乗り口の柵から僕を呼んだ。そのステキな君を見て僕は言った。
「ねぇ、足の間から、青空が見えているよ」
すると君は「もう、えっちね」 そう言って手で隠したよね。
観覧車の乗り口には気持ちの良いくらい日に焼けたおじさんが一人いて、にこにこと微笑みながら僕たちを迎えてくれた。
「ねぇ、早く乗ろ?」
君は急かすように僕の手を引き、おじさんに隠れるようにして僕に言ったね。
「ねぇ、続きは一番高いところで……ねっ?」
可憐な天使が耳元で小さく囁く。すると、青空が益々蒼く見えた。
ショートショート Vol13 二人だけの観覧車 森出雲 @yuzuki_kurage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます