五百文字一文

深見萩緒

五百文字一文


 なるほど五百文字程度ならば可能なのではないかと思い筆を取りましたが、考えてみれば文章を書くにはそもそもテーマというものが必要なのであり、テーマなしにただ書くという行為そのものを目的とした執筆というものはこれが案外難しく、ではやめようかと思い未練がましく文字数など数えてみますとなんとここに至るまで既に百五十字程度も書いており驚くことなど、これは或いは人生に似ているように思えます、と少々格好をつけたことを申しますのは、これをしたためている本日が令和二年成人の日であるからにほかならず、しかして人生とは確かに無理だ無理だと尻込みしているうち、あっというまに四半世紀、あっというまに半世紀が経ち気付けば身も心も衰え、若いうちにやっておけばよかったなどと思うことがひとつやふたつ出てきてしまうものが平凡な人間というものでありましょうが、ならばまだ半世紀、もしくは四半世紀も生きておられない若い方たちはせめて四百文字に至らぬうちに何かしらテーマを見付け、いえテーマなどなくともこのようにだらだらと、しかし確実に「残す」という行為に励んでいただきたいと思う老婆心、何も残らぬことが最も哀しいことでありますから。

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五百文字一文 深見萩緒 @miscanthus_nogi

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