第15話「何もないことが一番の幸せ」

「おかえりなさい!」

 私が家に帰ると、愛が玄関先で出迎えてくれた。

「晩御飯は用意してありますからね」

 そう言う愛の後ろにあるキッチンから、ほんのりと良い香りが立ち込めて来ている。

「ちょっと、空! お父さんがお帰りですよ!」

 愛が部屋の中に呼び掛ける。

 私たちが居間に行くと、空がコントローラーをカチャカチャと動かして食い入るようにテレビ画面を見ていた。相変わらず、ゲームに夢中らしい。

 愛に呼び掛けられたので、顔だけこちらに向けて「おかえりなさい」とただ一言挨拶をすると、テレビに視線を戻した。


 何の変哲もない平穏な日常──。

 家族がそこに居るだけで、私は幸せであった。


 ただの犬である私の投票によって、会社での平穏が保たれた。

 そんな事実に妻や娘はおろか、私自身も気付いてはいない。

 孤高の犬である私は、今日も人間社会での一日を乗り越え、家族とのひと時を過ごしたのであった。

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シゲルワン・ダンディ(犬)会社員 霜月ふたご @simotuki_hutago

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