河豚を食う馬鹿食わぬ馬鹿どうしましょうと迷う馬鹿

水円 岳

「死んでもかまわんと、有毒部位を除去せず虎河豚を食うやつがいる」

「あほだな。虎河豚以外にも、美味いものなぞ山のようにあるだろうに」

「絶対にあたりたくないと、最高級の虎河豚を突き返すやつがいる」

「あほだな。少しの手間を厭わなければ、美味い虎河豚を思う存分味わえるのに」

「鮮度抜群の最高級虎河豚を食えるのに、鮮度が落ちるまで食うかやめるか迷うやつがいる」

「あほだな。不安心理に囚われたら、美味い河豚だって不味くなっちまうのに」

「今おまえのほざいた全ての侮蔑は、河豚以外に食うものがあるから言えることだ」

「まあ……そうだな」

「食うものが河豚しかないこの状況で、おまえのくだらん戯言のどれが通用するんだ?」


 脱出不能な密室に閉じ込められた二人の男が、不毛な会話を繰り広げていた。二人がそこにいることは誰からも忘れられており、二人の周囲には彼ら以外何もなかった。自分が生き残るには相手を食うしかないという状況に追い込まれていたのである。

 しかし。男たちはどうしても行動を起こせず、身を苛む空腹に悶えながら、くだらない論理ゲームをひたすら続けていた。


 閉店した割烹の生簀に忘れ去られた二匹の虎河豚は。


 どうなった?


【了】

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河豚を食う馬鹿食わぬ馬鹿どうしましょうと迷う馬鹿 水円 岳 @mizomer

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