第13話〜魔物って不思議だよね、ほんと不思議。〜

私は今走っています。何故?

「明らかに多くないですかーーー!!」


魔物の大群に私は追われていました。

ここはポープチ森林。魔物が多く住む、王国から100キロは離れた地にある辺境の、B級危険区域。


森の周りは、魔物は基本出没しませんが、森に入った途端、そこは弱肉強食の世界。噂によると、ここには数年前、ダイヤモンドホーンの超個体が出現し、A級冒険者パーティーに多大な被害を与えたとか。


そんな森に何故私がいるか。それは私の恩恵で、この森の中央にある湖に出会いがあると、予兆されたから。

でも、私、今とても泣きそうです。


「くっ、帰ってください!火の魔弾、フレアバレット!!」

私は魔物の大群に、一発の銃弾を放ちます。この銃は、私の護身用の武器で、宝物庫に貯蔵されていた武具。かつて、勇者が作ったと言われる拳銃と言うものです。


そして、その魔弾は一匹の魔物に触れると爆発を起こします。そして、その威力で、他の魔物も巻き添えになり、私は何とか逃げ切ることが出来ました。


「はぁ、はぁ。お父さんここ怖いよぅ。なんで、B級討伐魔物が当たり前のようにいるの・・・。ってここは。」


私の周りには花畑が広がっていました。ただ、その花々一つ一つは、どれも希少なもので。

「こ、これはS級討伐魔物の《黒点の花》の頭に咲いていると言われる黒烏の花。これはA級討伐魔物の《ドライブドラグーン》の巣に咲くと言われている《烈火草》これも、これも。どれも希少な魔物から取れる花。何故こんな所に・・・。」

『人間よ。去れ。』


その時、私の頭の中に女性の、誰かの声が響く。


「だ、誰!?」

『我はこの花の持ち主だ。我の花をつもうとしたな。』

「そ、そうだったんですか!?す、すみません。

私はミレイナと申します。この花たちの物珍しさについ見入っていまいました。ですが、この花はほぼ全て希少と言われているもの。あなたはきっととても強いお方なんでしょう。どうか、あなたの姿を見せてもらえませんか?」


私は慌てながらも節操がないように、そう話す。

これだけのもの。きっと彼女が私の出会いに違いない。


『我の姿を見たいと言うか。だが、後悔するぞ?』

「私にもう後悔というものは既にありません。」

『そうか。まさか5年も経って、また新たな変わった者を見ることになるとは。ではしかと見るがよい。我の本当の姿を!』

私の来た場所とは反対の、対面する形で薄らと影が現れる。その影は明らかに人間じゃないようで。


「あ、あなたは。」

『我はお前たち人間にはダイヤモンドホーンと呼ばれる魔物だ。』


そして、その影が日を浴び遂に姿が現れる。

その姿は鹿だった。ただ、普通の鹿とは思えないほどの煌びやかで、美しい双角の輝き。

それは彼女、ダイヤモンドホーンの象徴である角だった。


「あなたが私の出会いなのですか?」

ふと、私は聞いてしまう。それほどにこの者しか無いと言うほどの確信があったから。

『出会いだと?我がその者の出会いと言うか?』

「そ、そうでした。えっと実は私ーーー」


通じた。私は自身が遂に報われたと思った。

なるべく迅速に、丁寧に、ここに来た訳を話す。

それを彼女が黙って聞いていることから、私はさらにこの魔物が、自身の出会いなのだと思った。


だけど、私が望んだ答えはかえってこなかった。


『残念だが、その出会いというのは私ではない。』

「えっ?」

ここまで来て、ここまできて私はまた判断を謝った。

今思えば、私は大きな勘違いをしていることに気づく。私の見た未来には、一度も彼女が写っていないのだ。それに、私が見た一番遠い未来は、やはりホワイトさんが、私の父を守る姿で。


「頑張ったのに。頑張ったのに・・・。私はここまで来たのに。」


気づいたら大粒の涙で視界がいっぱいになる。

私は本当に馬鹿だ。これでは姉様や兄様たちが言っている言葉通りではないか。

私はその事実を受け入れるしかなくなってしまった。


もう、このまま終わってもいいのではないか。そもそも、私がここまで頑張る必要なんて無かったはずだ。


そうやって私の中の黒い感情が現れる。


『不味い!黒烏の花が成長を始めた。このままでは。人間よ!乗っ取られるな!そのままだと帰ってこられなくなるぞ!』


彼女が私に、今までとは違う強い言葉で、私に語りかける。

でも、私にはその言葉は届かなかった。でかい蔦のような物が、私の身体を持ち上げ、そして、移動していく。


『ねぇ、私に答えて。ミレイナ。あなたは今までこんなに頑張ったのに、可哀想ね。

復讐しましょ?私がそれを手伝ってあげる。』


何かさっきまでの彼女とは違う声が頭に響く。

「そうね。私はもうこんなに頑張ったんだもの。私が辛かった分、あいつらに復讐してやる!!」

『きゃはは!いいわ、最高の個体を見つけられた。えぇ。あなたの願いは叶えるわ、ミレイナ。一緒に世界を滅ぼしましょう?』


『クソっ!乗っ取られおって。いいだろう。我がお主の苦労に終止符を打ってやろう!』


『もう負けないわよ?。私を一度殺したこと、後悔させてあげる!!』


そうして、S級、いや、SS級の強さを持つ黒点の花と、A級特別討伐指定魔物、ダイヤモンドホーンの戦いが始まった。


ーーーーかに思えた。


「もう、私たちのお花畑を荒らさないで!ウルトラサンバーニング!」

『キャアァァァァァ!!!』


そんな二つの衝突は、一人の女の子によって、一瞬で決着した。

『こ、コハル!お主、何故ここに!?』

「もう、アリちゃん私、明日も来るって言ったじゃん!ってそれよりこの人は?」


『あぁ。恐らくユマの客じゃろう。全く、人間は心が弱いな。S級程度に乗っ取られるなんて。』


「お兄ちゃんのお客さん?ミディさんに続いてまたお兄ちゃんは・・・。ゴーレムちゃん、その人担いであげて!私は今からお兄ちゃんのところ行ってくるから!!」


そうコハルが言うと、ゴーレムは頷き、ミレイナを持って、自宅の方へ向かう。

そして、怒り心頭のコハルは兄に一秒でも早く問いただすために、魔法で自身を強化して、一瞬で来た道を帰って行くのであった。


そして、取り残されたダイヤモンドホーンこと、アリアナは。


『相変わらずブラコンが過ぎるの。』


と、言って、また森の中へ消えていくのであった。



sideユマ

僕は今正座してます。何故って?僕も知らない。


「お兄ちゃん。また、女の人を誑かしたの!?」

「ご、誤解だよ。コハル。そもそもその女の人って誰のこと!?」

「ミレイナさん。」

「・・・・・・。」

「ほら!お兄ちゃんやっぱりそうじゃん!!」

僕の黙りが、肯定だと思ったのか、コハルが泣きそうになりながら、僕の胸ぐらを掴んで問いただしてくる。気分は夫婦喧嘩だ。


「ち、違うって。確かにミレイナは知ってるけど、そんな関係じゃないし、一度だけ会っただけだって。」

「そ、そうなの?じゃ、じゃあ私の勘違い?」

「そ、そうだってコハル。お兄ちゃんは白。限りなく白だ!」

「コハル、騙されてはいけませんよ。お兄ちゃんは今、ミレイナさんを呼び捨てにしていました。ミディさんの時は、しばらく、さんを付けていたのに。」

「はっ!」


はっ!じゃないよコハル。僕はホワイトの時にミレイナに会っているから、今更さん付けにしてないだけだよー。

そんな僕の心の声は届かず、二人には、こっぴどくミレイナと僕との関係を聞かされた。


解放されたのは、それから数時間後、ミレイナの目が覚めた時だった。


「こ、ここは!?私は。」

「起きたか。」

「ほ、ホワイトさん!!やはり、ここにあなたがいたのですね。」

やはりって言うことは、やっぱり彼女の恩恵の【神の伝達者】というので、僕の居場所が分かったんだ。

「あぁ。それより、気分はどうだ?」

「え、えぇ。私はだいじょうぶぅ!?な、何故私は裸なのですか!!?」

彼女は今は布団に寝ていてまったく見えない。というか見るつもりは無いが、彼女は今、全裸だった。

「その方が、現状に理解できると思ってな。」

「な!?ま、まさか。私は今からホワイトさんと夜伽を・・・。」

「いや、そうではない。断じてない。誰が妹がいる前ですると思っている。」

「そ、それでは外で。そんな、私初めてなのに・・・。」

「違うと言っているだろうが!!」

まったく。姫様のどこからそんな考えが浮かぶのだか。

「で、では、私は何故今、裸になっているのですか。」

「自分の体を確かめてみろ。」

「じ、自分の・・・こ、これは!?」

そう。彼女の背中には羽が生えていた。そして、それ以外も、以前の彼女とは全く別物の、例えるならーー

「・・・私はどうなってしまったのでしょうか。」

「いわゆる精霊化というものだ。黒点の花は魔物ではあるが、精霊の一種。恐らく君はそれと同化したことで、精霊と人間のハーフのような物になってしまったのだろう。その姿はそれが影響している。」

「な、何故このようなことに・・・いえ、薄らと覚えています。私はあの黒い花の言ったことに応じてしまったのですね。」

「それは仕方がない。黒点の花は相手の弱みに漬け込み、自身の触媒とする。君はその被害にあっただけだ。」

「これを治す方法はありませんか?」


ナビ。精霊化を解く方法ってある?

『残念ですがマスター。精霊化と言うものは、ステータスにそのまま影響を及ぼします。何か特殊な能力を彼女が持っているのであれば、解く方法はあったと思いますが・・・。』


そうか。

「残念だが、その方法はない。君が人間に戻ることは今後一切ないと思ってくれ。」

彼女は僕の話に酷く驚き、そのまま布団を被った。

布団からはすすり泣く彼女の声が聞こえる。

当たり前だ。二度と人間に戻ることは無いと、自分で言うのはなんだが、王国最強の冒険者に言われてしまったのだから。


だが、彼女は強いはずだ。僕の威圧を唯一跳ね除け、意見をすることができた、強い心を、僕は信じて彼女が泣き止むのをひたすら待った。


「もう大丈夫か?君がここに来た理由はだいたい察せる。俺のわがままで、君をこんな姿に変えてしまった。すまない。」

「・・・いえ、私の心が弱かったのが悪いのです。それに、ここに来たのも全て自分の意思。ホワイトさんが悪いことなんてありません。」

「いや、君の心はとても強いと俺は思う。二度と人間に戻れないと言われてしまったら、俺でも二度と、立ち直れないからな。」

「ふふ。ホワイトさんはそもそもそんなことにはならないと思いますよ?・・・ホワイトさん。本当に王国を救ってくれないのですか?」

「ここまで来てか。君は王国で指名手配されているのだろう?そんな王国を救って何になる?」


「私は、王家の血筋である前に、王国の一人の民であり、冒険者です。冒険者なら、困っている人達を助けるのは当たり前だと思いませんか?」

「・・・凄いな。君は。だが、俺も守る存在である妹たちがいる。君の頼みは聞けない。」

「そうですか・・・。」

そう言って彼女は立ち上がる。そんな歳で何故そこまでできるのか。そんな姿になってまで、何故彼女はそこまで。

「・・・行くのか、一人で。」

「えぇ。ある意味良かったです。今の私は前よりも強いと実感できます。・・・きっと、私の出会いはこれだったのでしょう。」

そう言って彼女は部屋のドアを開ける。

「待て!全く、服はどうした?」

「へっ?キャアァァァァァ!」

「本当に、気高いのか、お茶目なのか。」



「あ、改めてて言ってまいります。」

「あぁ。行ってこい。何かあったら俺の家に来い。一人くらいなら養うことはできる。」

「その言葉、甘えさせてもらうかもしれませんね。」


そして、彼女は前を向く。きっと今ならもっと早く王都に着けるだろうと。彼女は羽をはばたかせた。

「「待って!!」」

その時、僕の後ろから二人の声が響く。

行こうとしていた彼女は驚いてすっ転ぶ。

「うぅ。な、なんですか。・・・えっと、その方達が、ホワイトさんの妹さんですか。」


「お、お前たち。」

「「お兄ちゃん(兄さん)!」」

「は、はい。」

いつもとは違うお兄ちゃんコールに僕は少し怯む。

「今回の依頼、冒険者ホワイトは受けます!」

「なので、お兄ちゃんも一緒に連れて行ってください!」

「え、えっとマリアル?コハル?ぼ、僕はそんなこと受けないって。」

「「お兄ちゃん!!」」

「は、はひ!」

「私たちからの強制依頼です!」

「王都を守って、勇者をぶっ潰しちゃえ〜。」

な、なー!!?

「えっとつまり、ホワイトさんは・・・。」

「「お兄ちゃんをよろしくお願いします!」」

『マスター、これから大変ですね。ご愁傷さまです。』


その時、ミレイナは今までと違った涙を流す。それは悔しさでも、後悔でも、悲しみでもない。

嬉しさから出る涙だった。

そんな涙を見て、ユマはもはや逃げることはできなくなっていた。

「くぅぅぅ!」

「「お兄ちゃん!!返事!!」」


「・・・冒険者白王の仮面ホワイト。

ミレイナ・ラットプント様の剣として、この依頼受けさせていただきます。」

「はい!よろしくお願いします!ホワイトさん!!」

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シスコンの最強冒険者とブラコンの美少女姉妹は幸せに生きたいのです @kashisaki

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