3 夜の街と白い月
夜の街と白い月
誰もいない街。すごく静かなところ。
「待って! 猫ちゃん!」
赤いパジャマを着た女の子は、真っ暗な夜の中を走り続けた。
もう、その真っ暗闇の中に真夜中猫の姿は見えない。
でも時折、「にゃー」という猫の声がした。
その猫の鳴き声がときどき聞こえてきてくれたおかげで、女の子はあっちだ、あっちに猫ちゃんがいる。と真夜中猫の居場所がわかって、なんとか真っ暗闇の中でも、迷うことなく真夜中猫がいる(と思われる)ところまで夜の中を走って、真夜中猫を追いかけることができたのだった。
「猫ちゃんどこ! どこにいるの!」女の子は言う。
はぁはぁ、と息を切らせて走る女の子が、もうだめ、休憩、と思って足を止めると、何気なく動かした手のひらが、真っ暗な夜の中で壁のようなものに触れた。
女の子がその場所を確認すると、そこには煉瓦造りの壁があった。
そして、そのことを女の子が認識するのと同時に、女の子のいる世界の周囲に不思議な変化が訪れた。
その女の子が触れた壁の周囲から、まるで世界に新しい線や輪郭が描かれるように世界が飛び出して、あるいは描かれるようにして、いろんな建物や構造物が、真っ暗や夜の中に突如としてあらわれ始めたのだった。
「うわ、ここどこ?」
そんな不思議な現象と風景を目の当たりにして、女の子はその大きな目を丸くしてそんなことをつぶやいた。
女の子が立っていたのは、大きな都市の中にあるトンネルの出口付近の場所だった。(女の子が触った煉瓦造りの壁はトンネルの壁だったのだ)
女の子の足の下には歩道があり、その横には道路がある。
そして、女の子の視線の先には巨大な都市の風景が広がっていた。女の子が一度も見たことがないような(あるいは、映画や動画などで見たことのある架空の都市のような)そんな、どこにもありそうなのに、実際には世界のどこにもないような、そんな不思議な都市の風景が広がっていた。
時刻は夜。
真っ暗な都市の空には巨大な白い月が出ている。
その白い月が照らす淡い光の中に、真夜中猫の姿があった。
真夜中猫はトンネルの出口から伸びている道路の先にある白い噴水のある場所にいて、そこから、じっと、夜空に輝く白い月の姿を見ていた。
真夜中猫を捕まえる。 雨世界 @amesekai
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