2 真夜中の午前十二時
真夜中の午前十二時
そこにある古風な柱時計の時計が止まっている。(そのことに女の子はまだ、気がついていない)
……いた、真夜中猫だ。
女の子は思った。
その暗い夜の中には、確かに真夜中猫がいた。(かろうじて、そこに真夜中猫がいることが、真っ暗な夜の中でもなんとかわかった)
真っ暗な体をした、体に星のような模様のある、不思議な猫だ。
その猫はとても澄んだ青色の瞳をしていた。
その二つの瞳がじっと、暗い夜の中から、赤いパジャマを着た女の子のことを見つめている。
いたいた、猫ちゃん。見つけた。(にやにやしながら、そんなことを女の子は思った)
「……怖くないよ。ほら、私は全然、怖くない。だから、そこから絶対に動かないでね」
にっこりと少しぎこちない笑顔で笑いながら、女の子は、そーっと、その真夜中猫がいるところまで、近づいて行こうとした。
光の塊が消えちゃって、青色のパジャマを着ている小さな男の子のところには帰れなくなっちゃったけど、とりあえず今は猫を捕まえることが先だと思った。
とにかく、目的さえ達成すれば、(どうせここは私の見ている夢の中の世界の話なのだから)あとはなんとでもなると思った。(たとえば、真夜中猫を捕まえた瞬間に、もう一度、あの小さな泣いている男の子のいるところに続いている、さっきのドアの形をした光の塊が急に出現するとか、そういう奇跡がなにかしら起こると思った)
真夜中猫はそこから動かずに、じっと女の子のことを見つめていた。
「うん。いい子だね。そのまま、そこにじっとしていてね」
女の子はそーと、慎重に真夜中猫に近づいていく。
そして、そのまま、女の子の小さな両手が、まさに真夜中猫を捕まえようとしたそのときだった。(女の子は、よし、真夜中猫を捕まえた、とこのとき確信していた)
ぼーん、ぼーん、という鈍くて大きな『時計の音』が鳴った。
その時計の音を聞いて、真夜中猫はびくっとその体を震わせると、そのまま、するりと、女の子が真夜中猫を捕まえようとしていた両手の間をすり抜けるようにして、軽快な動きで、女の子の元から逃げ出して、夜の中に走り出してしまった。
「あ、待って! 猫ちゃん!!」
女の子は言う。
でも、真夜中猫は待ってはくれなかった。
「もう! なんなのよ、いったい!」
ふてくれて女の子は言う。
さっきの迷惑な音はなんの音なの!?
そう思って周囲を見てみると、いつの間にか、どこから出現したのか、あるいは、女の子が気がついていいなかっただけで、最初からそこにあったのかは、わからないけれど、そこには『古い大きな柱時計』があった。
結構立派な、古風な作りをした柱時計だ。
その柱時計の時計の針は、『ちょうど、真夜中の(真っ暗なのだから、今は真夜中の十二時なのだろう。きっと)十二時をさしたところで止まっていた』。
そのせいで、どうやらこの柱時計は先ほど鳴った大きな音を立てたようだった。
あー、もう。タイミングが悪いな。と女の子は思った。
女の子が嫌味を込めて、その柱時計のことをよく見てみると、その古風な柱時計の時間は、そのままちょうど十二時をさしたところで、時計の針が両方ともぴたりと止まっていることに気がついた。
そのことに気がついて女の子は、あれ? 音が鳴ったってことは時計の針はさっきまで動いていたってことだから、さっき音が鳴ったときに、ちょうど時計が壊れてしまったのかな? と思った。(そんな不思議なことがあるのだろうか?)
女の子は時間の止まった柱時計に少し興味を惹かれた。
でも、それから女の子は、はっとして、すぐに今は時間の止まっている古い柱時計を眺めている場合じゃない、ということを思い出して、急いで、真夜中猫が逃げ出していった方向に向かって、自分も駆け足で走り出した。
「待って! 猫ちゃん!」
女の子はもう真夜中猫の姿が見えなくなった夜の闇に向かって言う。
女の子がその場所からいなくなると、時間の止まっている古い柱時計は、そこから、まるで蜃気楼のように揺らめいて、そのまますぐに、……その姿が消えてしまった。(そして二度と、その場所に古い柱時計があらわれることはなかった)
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