真夜中猫を捕まえる。

雨世界

1 ……これは夢? ……それとも、これは現実なの?

 真夜中猫を捕まえる。


 プロローグ


 私は不思議な夢を見た。


 本編


 ……これは夢? ……それとも、これは現実なの? 


 女の子が真夜中猫に出会ったのは、不思議な夢の中でのことだった。


 赤いパジャマ姿の女の子はその夢の中で一人の泣いている小さな青色のパジャマ姿の男の子と出会った。男の子は女の子に「猫が逃げてしまったの」と言った。

「猫が逃げた?」

「うん。『真夜中猫』が逃げちゃったの」泣きながら男の子は言った。


「真夜中猫?」女の子は言った。


「うん。真っ暗な猫。星のような模様のある、猫」男の子は女の子を見てそう言った。


 ……真っ暗で、星のような模様のある猫? 女の子は首をかしげた。


 そんな不思議な猫がこの世界にいるのだろうか? そんなことを女の子は思ったのだけど、すぐに、あ、そうか。これは私の見ている夢の中の世界の話だから、別にこの世界の中にどんな猫がいたっていいんだ。とそんなことに今更、気がついた。


「いいよ。わかった。その猫、私が捕まえてあげるね。だからもう泣かないで」と胸を張って女の子は言った。

(小さな男の子は女の子よりも年下に見えた。だから女の子は、ここは私がお姉さんとして、この男の子の面倒を見なくてはいけない。男の子が泣いているぶん、私がしっかりしなきゃいけない、と思ったのだった)


「本当! お姉ちゃん」嬉しそうな顔をして男の子は言った。(お姉ちゃん。……いい響きだ。そんなことを女の子は思った。女の子は一人っ子だった。ずっと、妹か弟が欲しいと思っていたところだった)

「うん。もちろん本当だよ」にっこりと笑って、上機嫌で女の子は言った。


 こうして女の子は泣いている男の子のために、逃げ出した真夜中猫を捕まえることになったのだった。


「ありがとう。お姉ちゃん」男の子は言う。

「じゃあ、早速、猫を探しましょう。猫はどっちの方向に逃げて行ったの?」女の子は男の子に言った。


「あっちだよ。お姉ちゃん」

 すると男の子はある方向を手を伸ばして、自分の人差し指で指差した。女の子が男の子の指差した方向を見ると、真っ暗だった空間に、ぽっかりとドアの形をした光の塊のようなものが出現した。


「あの光の先に猫は逃げて行ったの?」女の子は言った。

「うん。そうだよ。お姉ちゃん」女の子を見て男の子はそう言った。


「わかった。じゃあ、ちょっと猫を捕まえに行ってくるね。真っ暗で危ないから、あなたはここで待っていて」女の子は言った。


「うん。わかった」男の子は言った。


 それから女の子は男の子にばいばい、と手を振ってから、(小さな男の子も女の子に手を振り返してくれた。かわいい)一人でその扉の形をした光の中に入っていった。


 あ、しまった。


 眩しい光の中を走り抜けているときに、女の子は『あの小さな男の子の名前を聞いておけばよかった』と思った。


 でも、それはもう遅かった。


 ……女の子が光の中を抜けると、(それはあっという間だった)その先にはまた真っ暗な空間が広かっていた。女の子が男の子に名前を聞こうと思って、急いで『後ろを振り向く』と、扉の形をした光の塊は泡のようになって、上空に拡散していくようにして消えてしまった。

 

 あれ? 消えちゃった。女の子は思った。


 光の出入り口がなくなって、女の子は、男の子のいる場所に戻ることができなくなった。


「えっと、まいったな。どうしよう?」困った顔をして、女の子は言った。


 するとそのとき「にゃー」と猫の鳴く声が聞こえた。女の子が前を見ると、そこには、……『真夜中猫』がいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る