第8話 悲運を覆すは信念

 その後ロゴタイプは7歳まで現役を続行、勝ち星こそ挙げられなかったものの、要所要所で健闘を見せた。

 特に結果的に引退レースとなった安田記念では、再度の逃げ戦法で勝馬サトノアラジンに食い下がりクビ差で惜敗という惜しい結果となり、改めてその実力を示した。

 歳は気になるが、レースを選べばまだまだやれる。そんな風な評価も定着し、秋に向けて調整していたロゴタイプであったが、その最中に故障を発生。年齢と、既に高齢となっていた父親ローエングリンの後継種牡馬としての需要から、これ以上の無理はせずに引退ということになった。通算成績は30戦6勝(G1/3勝)。


 ロゴタイプの競走馬としての実績は、単に数字を並べてみただけでは、「上の下」という所になるだろうか。G1を3勝できる馬と言うのはそうザラに居るものではないが、皐月賞を勝利してからのあまりにも長過ぎる連敗街道は、あまり褒められたものではないのもまた事実である。

 しかし、様々な不運にもめげることなくレースに闘争心を燃やし続け、遂にG1の舞台でその輝きを取り戻したロゴタイプの戦いの軌跡は、決して貶められる性質のものではない。


 もう限界、もう限界と周りから囁かれ続け、ファンからも見捨てられかけながらも、それでもロゴタイプは走り続けた。限界とは周りにいわれて決められるものではない、それを決めるのはあくまで己自身なのだと、ロゴタイプは己が走りを持って証明したのだ。そう考えれば、負け続けであった時代にもまた意味があったのかも知れない。生涯に無駄なことなど、何一つないのだと。


 ロゴタイプは先にも述べたとおり2020年現在種牡馬として活躍しており、その産駒は2021年にデビューする予定である。彼の子供たちが走るかどうかは、まだわからない。しかし、どんなに負け続けても子供たちは諦めないでほしい、と、そう思う。彼らの父親もまた最後まで諦めず、その手に勝利を掴んだのだから。


(了)

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皐月の誇り〜限界を決めるのは己自身 緋那真意 @firry

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