第7話 限界を決めるのは己自身
レース開始直後、ロゴタイプはスタートを決めて同じくスタートを決めたディサイファを抑えて先頭に立った。大本命モーリスもその後を追うかのように先行策を取り、リアルスティールもそれを追走する。
レースは芝の1600mとしては極めてゆったりとした流れになった。先頭に立ったロゴタイプは今年の中山記念より手綱を取っていた鞍上の田辺裕信騎手の絶妙な判断により、前半の800mを47秒ジャストというスローペースの流れを作り出すことに成功していたのだ。
スローペースでは後方で脚をため最後の直線で一気に他馬を抜き去るような戦法は取れない。また、流れがゆったり過ぎると先に行きたがる馬に折り合いをつけることも難しくなる。
このとき、2番手にいたモーリスとその後ろにいたリアルスティールは共にスローペースを持て余して折り合いを欠いた状態になっていたが、後続の各馬から激しい牽制を受け下がることもできず、完全に進退極まっていた。また、後続の各馬も本命のモーリスとリアルスティールの動向ばかりに気を取られていて、更にその前にいたロゴタイプの存在にまで気が回らない。
勝機は、そこに生まれた。
最後の直線に入り、各馬が一斉にロゴタイプとの差を詰めてくるが、ここまでスローの単騎逃げに専念できていたロゴタイプはまだ充分な余力を残していた。その差は中々縮まらない。
完全に折り合いを欠いた挙げ句勝手に失速していったリアルスティールを振り落としたモーリスがアジア最強マイラーの意地にかけて懸命に差を詰めようとするも、こちらも折り合いを欠いていた道中のロスが大きく、差を詰められない。スローペースで脚を持て余した他の馬も届きそうにない。
レースの実況を担当するアナウンサーの絶叫と競馬場のどよめきを尻目に、ロゴタイプは堂々と先頭でゴールイン。2着に粘り込んだモーリスとは1と1/2馬身の差がついていた。
3年以上にも及ぶ長い長いトンネルをついに抜け出し、ロゴタイプは復活した。千尋の谷に叩き落とされながらも、それでも這い上がってきた獅子の子が、勝利の凱歌を上げた瞬間だった。
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