第6話 絶望の縁で心は抗う

 6歳になったロゴタイプはオーストラリアへの遠征を企図、その叩き台として例年通り中山記念に出走した。自分の翌年に皐月賞を勝ったイスラボニータと、更にその翌年に皐月賞を勝ったドゥラメンテという3世代の皐月賞馬が顔を揃えた豪華な顔触れのレースで5番人気に推されたものの、逃げたカオスモスの変則的なペースに巻き込まれてリズムを崩し、それまで最低でも掲示板は確保していた中山開催のレースで初めて掲示板を外す7着に惨敗してしまう。

 当然、こんな状況下では海外遠征などできるはずもなく計画は白紙となり、それでも諦めきれない陣営は中距離路線を捨てて昨年秋に一度失敗したマイル路線に改めて挑む方針に転換、同じ中山で開催されるハンデ戦・ダービー卿チャレンジトロフィーにロゴタイプを転戦させた。

 レースでのロゴタイプはトップハンデを背負うことになったものの、道中は2〜3番手につけて流れに乗り、他馬に先んじて抜け出して粘り込みを図ったものの、最後の最後で中団から切れ味鋭く脚を伸ばした牝馬マジックタイムにクビ差だけ交わされてしまい、またしても勝利を逃してしまうことになった。


 それでも大敗となった中山記念からはかなり持ち直し、ある程度までマイルで戦える目処もついたことから、陣営は春の古馬マイル路線の最大目標である安田記念にロゴタイプを参戦させることに決めた。

 この年の安田記念で注目を一身に集めていたのは、前年の安田記念と秋のマイルチャンピオンシップを破竹の勢いで制し、更には香港のマイル戦をも2連勝して「アジア最強マイラー」と称されたスーパーホース・モーリスであった。

更には昨年のクラシック戦線では苦杯を舐めたものの今春ドバイで悲願のG1勝利を飾ったリアルスティールや中山記念でも顔を合わせた後輩皐月賞馬のイスラボニータなども顔を揃え、当時ではこれ以上は望めないと言い切れるほどの豪華なメンバーでの安田記念となった。

 そんな豪華メンバーの中にあって、皐月賞以来3年以上もの間勝ち星に見放されていたロゴタイプの存在はどうしても霞んでしまわざるを得ない。レース直前の人気は36.9倍の8番人気(12頭立て)と、もはや3歳春にレコードで皐月賞を制した名馬の面影をそこに感じるのは難しくなってしまっていた。



 だがしかし、ロゴタイプの闘志は未だ尽きてはいなかった。

 人知れず牙を研ぎ、かつて王者と呼ばれたその実力を再び見せつける瞬間を、今か今かと待ちわびていたのだった。

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