ずぅっと一緒だからね、おししょー様!
おししょー様に笑い返すボク。と、ノクトスさんがいつもみたいに豪快に笑う。
「だぁっはははは、頼むぜ〝天〟の勇者様よぉ! リューネと同じで、嬢ちゃんは今やSランク相当だ。しっかり俺達人間を導いて貰わないとなぁ!」
「今まで通り、私達四勇者が表舞台に立ち、〝天〟と〝地〟の二人が独自に動く、って事でいいのよねぇ? リューネ君」
「ああ。これからもよろしく頼む」
「水臭ぇ事言ってんじゃねぇよ。っし、それじゃ俺らもネスティスに戻るか!」
ノクトスさんが立ち上がり、メメリエルナさん、ディアーネが続く。ボクも一緒に行くつもりだったけど、今戻ったら魔族を撃退した冒険者の一人、として確実に目立つ。それは切り札の〝天〟の言霊使いとして好ましくない、っておししょー様が言って。
つまり、また徒歩。ネスティスまで、徒歩! おししょー様との旅は楽しいから別にいいんだけどさぁ……。
「あぁそうだ、ノクトス。戻ったらついでに、アスミアが武術大会を辞退したと伝えてくれ」
「ぶじゅ……あぁぁぁ!?」
忘れてた! 今日決勝戦じゃん! って、辞退!?
「な、何でだよぅ!」
「いや、アスミアさん。あなたはもう極力目立つべきではないのですから当然でしょう。魔族との闘いでかなりの深手を負った、って事にでもしときましょうか」
「くすくす、決勝戦がなくなったらちょっとした暴動になっちゃうかしらぁ? しょうがないわねぇ、私とノクトスでエキシビジョンマッチでもやっちゃう?」
「面白そうだなそれ! だぁっはっは、帰ったら提案してみるかぁ」
「あぁもう、勝手にして下さいな。……そうそう、アスミアさん」
と、ディアーネがボクの前に。む、なんかちょっと威圧的だよぅ。
「なに?」
「あたし、とっととDランクになれとは言いましたが、いきなりSランクになれだなんて一言も言ってませんわよ?」
胸を張って、挑発的に。ボクも負けじと胸を張る。ふふん、胸ならボクの方がおっきいもんね!
「悔しかったらそっちも早くAランクの勇者様になるんだよぅ!」
「またそう簡単に……でも、そうですわね」
溜息を吐きながらも、ディアーネは勝気に笑っていた。
「そうします。とっととネスティスに戻って、依頼をこなして上を目指しますわ。こんな田舎っ娘に負けてられませんし」
「ふっふっふ、言ってればいいんだよぅ。ボクはもっともぉっと強くなるんだから!」
「あたしはそれよりも更に強くなります。せいぜい抜かされないように頑張りなさいな」
それではまた、と言い残したディアーネは、ノクトスさんと一緒に転移していった。随分とあっさりした別れだけど、まぁいっか。また会えるだろうし。
「はっ、こんなポンコツが勇者とは世も末だねぇ」
と、小屋の外でお鍋を洗ってたばっちゃが中に入ってくるなり毒を吐く。
「ポンコツばっちゃは黙ってるんだよぅ。ボクは言霊に選ばれただけだもん」
「はっ、んじゃあとっとと魔王をぶっ殺してきな。遅くとも来年の春には間に合うように」
「農作業手伝わせる気満々じゃん! ふんだ、いいもん。言われなくたって魔王なんか皆殺しにしてやるから! 首洗って待ってるんだよぅ、ばっちゃ!」
「……それだと、まるでジルバさんが魔王みたいな言い方だけど。まぁいいや、私も帰るねミア」
「あ、うん! じゃあね、カンナ!」
気が付いたらもう、ボクとおししょー様とばっちゃだけ。なんかちょっと寂しい。
でもそんな事言ってられない。おししょー様に笑われないように、勇者としてもっともぉっと頑張らなくちゃ!
そうと決まったらボク達も早く旅に
「こらポンコツ穀潰し! あんの魔族に畑をちょいと焼かれちまったし、今日くらいは農作業手伝っていきな!」
……むぅ、このババアはどうしてこのタイミングでそんな事を言うんだか。
「うるっさいよぅ冷徹ババア! その畑を護る為に闘ったのはボクなのに! ……えっと、おししょー様。今日一日だけ、農作業の手伝いをしても、いい?」
「ああ、勿論だ。私の言霊も少なからず村に被害を与えてしまったし、手伝おう」
「にしし、ありがとうおししょー様!」
にこやかに笑ったおししょー様がゆっくりと立ち上がる。ボクはそんなおししょー様の肩に手を置き、無理やり座り直させた。
「あ、アスミア?」
「おししょー様。勝手に朝ご飯を食べ終えた感じにしないで。ちゃんと最後まで食べて、農作業頑張ろ?」
「う……わ、分かっているさ」
絶対に分かってなかったもん。もぅ、油断も隙も無いんだから。
(……でもまぁ、いっか。これから先、ボクとおししょー様はずぅっと一緒にいるんだから)
旅をしてる間に、絶対にお野菜を好きにさせてやるんだから。となると、今よりももっとお料理を頑張らないと。
んで、ついでに魔王も倒しちゃうって事で。うんうん、楽しみになって来たよぅ!
「……アスミア。全部食べたぞ、ご馳走様でした」
「ん~~、うん、綺麗に食べてる! 明日は違うお野菜でご飯作るからね!」
「お、お手柔らかに頼む」
お手柔らかに? ボクの知らない言葉だから聞かなかった事にしよう。
ボクは手を差し出す。おししょー様はそれを握って立ち上がる。
ちょっと照れ臭そうなおししょー様。ボクは満面の笑みを浮かべた。
「それじゃあ行くんだよぅ、おししょー様!」
――――少女は改めて歩き出す。師の野菜嫌いを直す為……もとい、魔王を倒す為に。
かくして、世界の軋みは、加速する。
農民少女さん、勢いで冒険者さんに弟子入りしてみた ~わりと才能あったみたいです~ 虹音 ゆいが @asumia
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