エピローグ

 大災厄の危機が去った後、各国は数か月という期間で新しい大組織を作ることを世間に公表した。

 組織名などはまだ決まっていないとのことだったが、その組織を作る目的は今回のような大災厄が起きた際に各国が連携してことに当たれるようにするためというものだった。

 今回の件でさすがに各国も懲りたのだろうと大部分の一般市民は納得していたが、一部の者たちはそれでもと内心で首を傾げることとなる。

 国外だけではなく国内でさえ政治闘争に明け暮れる国々が、そうそう簡単に大きな権力を掴めそうな機会を手放すだろうかと。

 ただその組織の内情が知られるについれて、その疑問が杞憂だということも知られるようになる。

 新しくできる組織は、できる限り大国の影響を排除できるように様々な規定がされていたのだ。

 もっと正確にいえば、むしろ大国の影響は最大限受けるようになっている――先の内容と矛盾するようだが、その影響の受け方が組織されていたのだ。

 そのシステムがどこまで大国の影響を排除できるかは不明だが、それでも今までよりはましだと思わせるようになっていた。

 

 何よりもその組織が新しかったのは、複数にまたがる魔物の被害が起きそうな場合に即応できる軍を持っているということだった。

 対魔物においては、冒険者ギルドという組織が既にあって対立しそうではあったが、その辺りのすみわけもしっかりとできていた。

 冒険者ギルドは、所属している冒険者が組織に縛られずある程度自由に動き回ることが出来る。

 新しくできる組織は、国家の軍のように完全に規律に縛られて動く部隊となっている。

 もともと冒険者を目指す者たちはそうした規律に縛られることを嫌がる者も多いので、冒険者ギルドの影響力が極端に落ちるということも起こらなかった。

 

 対魔物戦線と名付けられたその組織は、その後強大な魔物に対峙する組織として活躍していくことになる。

 その組織の有用性が認められたのは、発足してから三年があった時にとある国で発生した魔物暴走スタンピードが起こった時だ。

 大陸各地に根を張っている冒険者ギルドと連携をしている対魔物戦線は、発生した多くの魔物に対処するために初めて持っている軍を動かすことになった。

 勿論軍を動かすといっても、一瞬で大量の軍隊を動かすことができるわけではない。

 こうした事態が発生した時に、すぐさま動かせるように各国に駐留している部隊を順次導入していったのだ。

 この駐留部隊を維持する場所と金を提供することが、各国に求められているということは言うまでもないだろう。

 

 その組織の有り様はともかくとして、基本的に自由参加を旨としている冒険者ギルドでは対応が難しいスタンピードが起こった際に、組織的に動ける軍を持っているという強みは十分に生かすことができる結果となった。

 冒険者ギルドが対応していればもっと被害が大きくなっただろうという結論が出された結果、各国の組織に対する期待度がさらに大きくなったこともあるだろう。

 とにかく組織されてからたった数年で結果を残したその組織は、それぞれの国からの援助も大きくなってより効率的に動けるようになっていく。

 さらに年月が経てば、大陸中から信頼される大組織となっていくのだが、それはまた別の話である。

 

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 巨大カメの騒動が起こって直接の被害がなかった人々の記憶が薄れ始めるくらいの年月が経ったある日。

 伸広はアリシアと一緒に灯たちを拠点の居間に呼び出していた。

 現在の灯たちは、好きな時にダンジョン探索をしたり拠点で好きなことをしたりと自由な時間を過ごしている。

 そんな灯たちを伸広がわざわざ集めるというのは、中々にレアな出来事であった。

 

「――わざわざ集まってほしいって、どうしたんですか、師匠?」

「うん。そろそろ君たちにも決めてほしいことがあってね」

「決めてほしい……? や、やっぱり拠点でのニート生活が長すぎた?」

「忍。どうしていきなりそんな結論になるかな? ……ただ斜め上の方向ではあるけれど、似たような話にはなるのかな?」

「伸広。それだと灯たちが戸惑うだけよ。もっとちゃんと話さないと」

「そうだね。ごめん」


 そう一言謝罪してから伸広が話したことは、拠点に長い間いることによる弊害の話だった。

 早い話が伸広の時と同じように、神域とされる拠点に長くいることで彼女たちの肉体に影響が出始めているのだ。

 より具体的にいえば、今の段階だと普通の人と比べると『老い』の症状が現れるのが遅くなっているということだ。

 

「――今はまだいいけれど、これ以上長くいるといずれは不老の肉体を手に入れることになる。条件もほぼ満たしているしね」

「……となると、私たちにここから出て行けと?」

 直接的な忍の問いに、伸広は苦笑しながら首を左右に振った。

「忍らしいけれど、どうしてそう極端な結論になるかな。自分としては皆にいつまでいてもらっても構わないよ。ただそうなると君たちが世間から取り残されることになる」

「……要するに、ヒューマンとしてはあり得ないくらいの長い時を生きていくか、拠点ここから出て行って通常の寿命を生きていくかを決めろということですか」

「そういうことだね。勿論こんなことを今すぐに決めろとは言わないよ。さっきも言った通りまだまだ時間に余裕はあるからね。――長くて十年、それくらいまでの間にどうするかを決めておいて欲しいんだ」

 十年という期間が長いかどうかはともかくとして、すぐに決めなくてもいいという伸広の言葉に三人はすぐに安堵したような表情を浮かべた。

 

 そうして精神的な余裕ができた灯が、ふと思いついたような表情になってアリシアを見る。

「アリシア様は……? 神様の分体だから元から同じということでしょうか?」

「そんなことは無いわよ。神の分体といっても大元はヒューマンから生まれているもの。条件はあなたたちと一緒よ。でも私はとっくに結論を出しているからこっち側にいるだけね」

 最初から伸広と共に生きると公言しているアリシアにとっては、拠点で暮らし続けることの意味を理解したうえで、きちんと結論を出している。

 伸広もそのことを知っていて彼女に相談した結果、今のような状況になっているというわけだ。

 

「まだまだ十年という年月があるにしても、これから先の人生を決めることだからちゃんと知らせようっていうことになってね」

「そうですか。それはとてもありがたいです。――ね?」

 灯が忍と詩織に視線を向けると、二人とも同時に頷いていた。

「確かにありがたいが……正直なところそこまで時間を貰わなくてもよかった気もするな」

「まあね。だけれどこれから先色々な人間関係を作っていくことを考えると今から知っておいたほうが良いと思ってね」

「……なるほど。そういうことか」

 もし拠点居続けることに決めると、今作っている人間関係も置き去りにしてしまう可能性もある。

 それを考えれば、確かに今のうちから知っておいたほうが良いというのは間違いないだろう。

 

 ここで伸広から話を聞いた灯たちは、翌日から自分たちがどうするべきかを悩むことになる。

 もっとも約一名は既にこの時点で決めていたりするのだが、それが誰かは言うまでもないだろう。

 

 

 ――そして伸広がこの話をしてから数か月経ったある日。

 今度は伸広とアリシアが三人に呼び出されて、居間に集まっていた。

「――結論が出たみたいだね」

「はい。私は――――」


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 結局彼女たちがどういう結論を出したのか知る者は、それほど多くはない。

 ただ彼女たちが作った『隠者の弟子』という冒険者パーティは、その後も多くのメンバーの入れ替えなどもありながらも長い間活躍し続けたということだけはここに記しておく。




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これにて『転生して500年、コツコツ覚えた魔法は世界最高峰』は終わりになります。

気が向けば後日談的な話を書くかもしれませんが、あまり期待せずにお待ちください。


それではここまでお読みいただきありがとうございました。

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転生して500年、コツコツ覚えた魔法は世界最高峰 早秋 @sousyu72

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