とある惑星 (短編)
うちやまだあつろう
とある惑星
2XXX年。三人の宇宙飛行士が、太陽系外縁のとある星へ調査の旅に出た。
「食料はどのくらいある?」
「我慢すれば、二、三ヶ月はもちます。」
「そうか。酸素は?」
「タンクにはほとんど無いですけど、この酸素循環器はまだ使えますね。」
「よし。キャプテン、そっちはどうなんだ?」
「計器以外は無事だ。動かせるには動かせるが、現在地が分からん。」
往路は計画通り順調で、何事もなく終わったのだが、復路で問題は発生した。強力な磁気嵐に飲み込まれたのである。
おかげで計器類は壊れ、更に地球との交信装置も壊れてしまった。また、現在地の座標を示す計器も壊れているために、地球への帰り道が分からない。
つまり三人は、この広い宇宙に命綱無しで放り出されたようなものである。
「ハイパージャンプは使えるんですよね?」
「使えるには使えるが、目標が分からない状態で使うのは危険すぎる。」
「だが、キャプテン。ここは地球から何万光年と離れた場所だ。ジャンプを使わないと、俺たちは一生宇宙を漂うことになるぜ。」
ハイパージャンプというのは、最新の技術が産み出した、超光速航行法である。簡単に言えば、光速を越えるスピードで宇宙空間を走り抜ける技術のことだ。何光年という途方もなく遠い場所を目指すには、無くてはならない技術であった。
しかし、航法には一つの副作用があった。
その副作用というのは、時間のズレである。ハイパージャンプをする毎に、この宇宙船は少し未来にタイムトラベルしてしまうのだ。
「家族に会おうだなんてのは、もう諦めてんだ。とにかく、俺は地球を拝みたいんだよ。」
「それに、ここでは着陸できる惑星も無いですから、修理もできませんよ。修理さえできれば地球へ帰れるんです。」
「うむ、分かった。一度だけ、地球方面にジャンプした後、その近くの惑星にて船の修理を行う。これでいこう。」
かくして三人は、宇宙船を地球があるであろう方角へ向けた。
三人は各々の座席でシートベルトを閉めると、大きく深呼吸する。そして、キャプテンはハイパージャンプのボタンを押した。
カラフルな星の光が窓の外を駆け抜けていく……。
キャプテンが目を開けると、窓の外に小さな赤い惑星が見えた。三人は笑顔で頷き合う。
「よし、あそこに着陸しよう!全員、準備しろ。」
「了解です!」
ハイパージャンプによる故障もない。三人を乗せた宇宙船は、ゆっくりとその惑星に近づいていった。
全身を覆うスーツに身を包んだ三人は、赤く染まった大地を踏んだ。その手には修理用の工具が抱えられている。
「何もないですね。」
「あぁ、そうだな。放射線量だけは凄まじいが、それ以外は生物がいてもおかしくない数値だ。」
「巨大な怪物がいたりしてな。」
「変な冗談はやめてくださいよ。」
見渡す限りの赤い砂漠だ。こんな環境では知的生物はおろか、微生物すら生き残れないだろう。
「さぁ、手早く修理しよう。」
「そうだな。こんな死の星なんか飛び出して、早く青い地球に帰ろう。」
ここでしっかり修理できれば、地球はすぐだ。帰ってしまえば、英雄として後世まで名が残ることだろう。
胸に沸く期待のせいか、三人の手は普段よりも早く動いた。
結果、修理はすぐに終わった。
三人は飛び跳ねたい気持ちを抑えながら、宇宙船に戻る。こんな星とは、もうすぐおさらばだ。地球に戻れば、家族には会えなくとも、最高の祝福が待っているはずである。
「さぁ、帰ろう!」
「待ってろよ、地球!今すぐに帰るからな!」
「これで僕らも英雄ですね!」
「違いない!」
キャプテンは宇宙船のスイッチを捻る。聞きなれた電子音と共に、全ての機器に明るい光が点った。
「やった!帰れるんだ!」
「よっしゃ、キャプテン!地球はどっちの方角だ!?……キャプテン?」
満面の笑みを浮かべる二人に対して、キャプテンの顔は死人よりも青かった。
「どうしたんですか?」
「キャプテン、喜び方でも忘れたのか?もう地球に帰ったも同然なんだぜ?どうして、そんなに暗い顔してんだ。」
それを聞いたキャプテンは、震える指で現在の座標を指差した。
「あぁ、そうだとも。我々は無事に帰還してしまったんだ。この地球に。」
とある惑星 (短編) うちやまだあつろう @uchi-atsu
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