エピローグ 観覧車、廻る、馬鹿みたいに
「後日談というか、今回のオチですが」
と、死神が言った。相変わらず硝子のように頼りない声だったが、いつにもまして上機嫌でいることは俺にも分かった。
「意外でしたね。まさか最後の最後で、あなたが善人ぶるなんて。てっきり、私はあの女を呪って終わりだと思ってましたけど」
「ちゃんと呪ったさ。あの女にとって、もっとも最悪の方法でな」
「え?」
「無かったことにはならない、なんて聞こえはいいが――そんなのはただの呪いだよ。生きている限り、ずっと続くんだから」
あの母親は、掛け値なしに問答無用で市間いちるを呪っていた。そんな相手と、一生を通して向き合っていかなければならないという事実が呪いでなくてなんだろう?
家族とは、切っても切れない縁である。死んでも切れない縁である。
だから向き合っていくしかない――意味もなく、無意味にもなれず。
「へぇ――まぁそれこそ、私からすれば聞こえのいい話ですけどね。まるで言い訳をしているように聞こえますけど」
「なにがいいたい?」
「愛を知っちゃったんですよ、あなたは」
「は?」
「あなたは結局、無意味にすらなれなかったんですよ。ただ無意味に人を呪うことすらできなかった――人を想ってしまったんです」
「ふん――つまり、あの二人が分かり合える可能性に賭けたからこそ、俺がそういう呪いをかけたのだと言いたいんだな」
まったく、死神のくせに甘ったるい。
想いだの愛だの――反吐が出る。
「あなたが何と言おうと、人を想う心は愛ですよ――ま、死んだらそれも終わりですけどね」
言い残して、死神は観覧車から降りた。ちりん、という鈴の音色を揺らして。
「だからいつまでも、そんなところにいても無駄ですよ。だってあなたは死んでるんですから。家族も縁も想いも愛も、あなたにはもう終わった話なんですから」
終わったのなら、次に行かないと。
そう言って、死神は俺の前から姿を消した。
「ふん――知ったことか。終わっていようと死んでいようと、そんなことに意味は無い」
ただ俺は、人を呪うことしかできないのだから。これまでもこれからも。そうしていくしかないのだから。
観覧車は今日も廻り続ける。
馬鹿みたいに、何の意味もなく廻る。
観覧車、廻る、馬鹿みたいに 神崎 ひなた @kannzakihinata
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