心に突き刺さる短編、まるで短い映画を見ているようだ

彼が笑うしかなかった理由。私にも分かる。
周りに合わせて、媚びへつらって。それが当たり前の世界。そんな世界から抜け出させてくれるのはある言葉だけ。
「頑張ったね」
これだけで人は悪循環から、もやのかかった目の前から抜け出せる。

そして、この小説の価値は主人公と同じ境遇の人間の心を掴めるという一点に尽きる。「自分だけではなかったんだ」「主人公みたいに抜け出せるかも」という安心が提供される。
これは大きな価値である。
これは読む人を選ぶ小説だ。しかし、選ばれない人間はそこまでの人間だったという事だ。
「あなた」は理解できるかな、小説に選ばれる覚悟はあるのかい。