都合のいい男

@petika

NO.1-1

 誰かが彼を、素晴らしい存在だと定義した。

 誰かが彼を、悪魔だと、死神だと言った。

 もしも産まれた理由を誰しもが持っているのだとしたら、彼に付きまとう理由はきっと「他人のため」だ。


 No.1-1


「おい、嘘だろ」

 人通りの多い銀柳街の真ん中で、彼は驚愕の声を漏らした。

 仁王立ちした彼の前には、この寒い季節と街並みには似合わない、薄ピンクの半袖パジャマを着た女が、物凄く嫌そうな表情をしている。

「くそっ」

 パジャマ姿の女は男をじっと睨みつけた後、来た道を走り出し、銀柳街の奥に消えてった。

 残された男は驚きで落としていたスマホに気付き、また「嘘だろ」と小さな声を漏らす。

 落ちたスマホに映る画面には、さっきの女と自分の姿が壁紙に設定されていて、良くある言い方をすれば、身体中に電気が流れたような、そんな感じだった。

「あいつ、生きてたんだ」

 男は実に、6年振りに涙を流した。

 スマホを拾い上げて、女が消えてった銀柳街を信じて走ったクリスマスイブの夜。

 これはクリスマスの奇跡だと信じて。

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