一万字の中に長編一冊分の満足感

両親を亡くし親戚の家に引き取られしんどい日々を送る少女と、いつもその傍にいる犬のお話。
個人的にはもう王道も王道、ライトノベル的な異世界ファンタジーとしては、まさにど真ん中といった風格の作品です。
この〝王道〟というのは主として話の筋のことなのですが、でもそれをここまで殊更に強調してしまうのは、その王道を最初から最後まで、長編一冊分をフルセットでやり切っているからです。それも、たった一万字の分量で。なにこれすごい。どうなってるの。
お話自体は間違いなく一万文字、つまりは短編の長さなのに、欲しい要素が全部ある。舞台設定に人物造形、ストーリーとお話の構造。きっとどれかは犠牲にしなきゃいけないはずのものが、でも何ひとつ欠けていない。その上で、駆け足感や無理に展開を急いだような感じもない。何がなんだかわかりません。
全然わからないのでもう個人的な趣味に走ったアホの感想を書きますと、キャラクターが好きです。犬と白の魔法使い。特に魔法使いさんが本気の殺意を丸出しにしているのと、そのおかげでこのふたりがバチバチやり合うところ。よかったです。なにも考えずただアホの顔で「いい」ってなった場面でした。好きです。