両親を亡くし親戚の家に引き取られしんどい日々を送る少女と、いつもその傍にいる犬のお話。
個人的にはもう王道も王道、ライトノベル的な異世界ファンタジーとしては、まさにど真ん中といった風格の作品です。
この〝王道〟というのは主として話の筋のことなのですが、でもそれをここまで殊更に強調してしまうのは、その王道を最初から最後まで、長編一冊分をフルセットでやり切っているからです。それも、たった一万字の分量で。なにこれすごい。どうなってるの。
お話自体は間違いなく一万文字、つまりは短編の長さなのに、欲しい要素が全部ある。舞台設定に人物造形、ストーリーとお話の構造。きっとどれかは犠牲にしなきゃいけないはずのものが、でも何ひとつ欠けていない。その上で、駆け足感や無理に展開を急いだような感じもない。何がなんだかわかりません。
全然わからないのでもう個人的な趣味に走ったアホの感想を書きますと、キャラクターが好きです。犬と白の魔法使い。特に魔法使いさんが本気の殺意を丸出しにしているのと、そのおかげでこのふたりがバチバチやり合うところ。よかったです。なにも考えずただアホの顔で「いい」ってなった場面でした。好きです。
一万字でここまで骨太なファンタジー書いてエピソードをしっかり終わりまで書ききってるのが一番の魔法ですよ。
最初はですね、イマジナリーフレンドの話かなと思ったんですよ。でもそうではない。一話目「夢の犬」から言葉を引用するなら「(前略)私は見たことないし、優しい家族もいなかった。だから、私がマッチを擦っても何も見えない(後略)」なんですよ。つまり、そう、この理屈で行くなら、主人公が見ているこの犬は現実なんですよ。ちょうどそれに読者が気づくだろうタイミングと、ファンタジー要素がドッと襲い掛かってくるタイミングが狙いすましたように一致しているのが心地いいんですね。
そして圧巻の描写となるのが五話目「糸の声」後半。文章が上手い。死ぬほど格好いい。ここがめちゃくちゃ上手いので、何もかもに説得力が出るんですよ。この超常の力のあり方を完全に納得させられるので、それに連なる世界観まで含めて全部納得がくる。ファンタジーとして完成する。
総じて力量が高いです。強い。