本物の、偽物の執事のお話

とある執事の半生を綴った物語。あるいは、彼の犯した殺人を活写したお話。
なにやら実話っぽい語り口、と思いながら読んだのですが、どうやら本当に実在の人物でした。
ロイ・フォンテーン、本名アーチボルド・ホール。作中の殺人事件も実際にあった出来事のようで、つまりは伝記ということになるのだと思います。
わりとネタバレになってしまう感想なのですが、最後の一文が好きです。
あの一文でくっきり話の核が見えるというか、主人公がロイさんから一気に英国そのものになる感じ。加えて、実はそれがキャッチコピーの時点でネタバレされていたこと。
〝斜陽の大英帝国に彼は現れた。執事という幻想の燕尾服を纏って。〟
執事という燕尾服が幻想と化してしまうほどに、斜陽化した大英帝国のお話。ロイ・フォンティーンという人物を通じて描かれる英国の衰退。いや、彼自身はしっかり主人公しているのですが、でもそれを結びの一行で全部丸ごと『英国』に飲み込んでしまう。あの一瞬の、世界がぐわっと広がる感じ。物語のスケールの上書きをたった一文で完了させる、しかもそれが最後の最後にくる、あの瞬間の快楽がもう本当に最高でした。

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