殺人執事ロイ・フォンテーン
きょうじゅ
執事登場
ロンドンの高級住宅街チェルシーの集合住宅リッチモンド・コートに住む元国会議員、スコット=エリオット氏が新しい執事を雇ったのは1977年の11月のことだった。彼は労働党選出の議員だが、スコットランドの古い貴族の家の流れを汲む名士であった。
彼がその執事を気に入った理由の一つは、紹介状に記された彼の前職がスコットランドの邸宅「カートルトン・ハウス」であったことにあるのかもしれない。彼の前の主人は、ウートン少佐という人物だという。
スコット=エリオット氏は八十歳を過ぎた老人であったが、もちろんただ紹介状を鵜呑みにして使用人を雇うほどには
スコット=エリオット氏は喜んだ。百年前、ヴィクトリア女王の時代ならいざ知らず、20世紀も後半に入ったこの世の中で、ウートン少佐が言うような「有能で、謹厳実直な、そして洗練された立ち振る舞いを身に付けた」執事を得ることは、どれほど給金を積んだとしても難しくなっていたのだから。
こうして、ロイ・フォンテーンは執事としてリッチモンド・コートに雇われた。はじめのうち、彼は確かに有能な執事であった。夫より22歳年下のスコット=エリオット夫人は親しい人々に対してこの人物を「わたくしのお友達のロイ」と呼び、決して使用人だからといって侮るような態度を取ることはなかった。
だが、もちろんエリオット夫妻は知らなかった。ロイ・フォンテーンがわずか数か月前まで窃盗の罪で投獄されていたという事実も、これはまだ発覚してはいなかったが殺人の前歴すら持っているという事実も。そして、ウートン少佐を名乗って電話に出た人物は、声色を使って成り済ましたこのフォンテーン本人だったのだという事実も。
当然、紹介状もまた偽造の品であり、彼の名すら本名ではない。後世に怪物執事と呼ばれた男、本当の名をアーチボルド・ホールという。彼の目的は単純であった。つまり、スコット=エリオット夫妻を殺し、その全財産を奪い、南アフリカに高跳びして優雅な余生を送る事こそが、この「お友達のロイ」の本当の狙いだったのである。
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