地に足のついた世界観、明瞭な描写による異能と戦闘の迫力。時間をかけて読み込みたいハードなファンタジーだと思います。
氷の怪物に侵略される十九世紀、主人公がまさかの少年ジューヌ・ヴェルヌという独自性のあるシチュエーション。異常に変異してしまった世界の悲惨と見た事もない光景を、共に切実にありありと見事に描写している。怪物とそれに抗う異能、そこに絡む「人間が想像できることは、必ず人間が実現できる」という言葉。切実な内容でありながら奇妙に胸が高鳴る、正に極地冒険、更に十九世紀という時代とジューヌ・ヴェルヌという主役がその雰囲気を強く掻き立てる絶妙さを持つ、死と悲しみとロマンの入り混じった見事な物語です。
未知の脅威に襲われた19世紀の凍土が舞台に数多の英雄たちが入り乱れる歴史改変SF。一介の文士ジュール=ヴェルヌによって語られることで、過酷な世界でただの人間ではいさせてもらえなかった英雄たちの物語が生まれ、彼もまた英雄譚に組み込まれていく。作家ヴェルヌは想像力の可能性を説きつつ、なぜ僕たちは大人にならねばならないとき子どもなのかと呟いた。戦う人間の力強さを語り、ただの人間だった英雄の無力さに寄り添う。極寒の中でも熱い“フリーズパンク”です。