Deep cide~源霧編~

岡崎 十壮

第1稿 ~憂鬱~

都会は眠らない街である。


ビル街は午後23時を回っても煌々と明かりを発し、深夜の暗闇に対抗しているようにも見える。

「直でオフィスに来いとか、メールでいいじゃんか~。」

ぶつくさ言いながら駅の出口から外へと足を運ぶ女は、ビジネス系のビルが立ち並ぶ地域へと移動していた。

出版社のテナントが入ったビルのエレベータに乗り6階のボタンを押した。

これから起こるであろうことにヤキモキしながら彼女の精神は階が上がっていく度にピリピリしていく。

職場の透明ガラスでできたドアをくぐるとそこには長机に置かれたいくつかの古臭いPCとその台数と同じ数の椅子が並んでいた。

流石に深夜帯ということもあり社内にはほとんど人がおらず、デスクに4~5人が座席に座った状態でディスプレイとにらめっこしている。

女は同僚をお構いなしにスルーし、最奥部に一台ポツンとある椅子に腰掛け、事務作業をする大柄な男へと声を発した。

「編集長。目を通していただいた記事のことですが…」

「あー斎藤か。まあこっち来いや。」

男は左手をデスクから離し、左手の指先で手招きをしてみせた。

「はい…」

固唾を飲みながら女は男に向かって数歩近づいた。

男が口を開く。

「『政界夫婦、なかよしの秘訣は?』だと…つまんねえ記事かくなや。

いいか?大衆が興味あんのは政治家だったら汚職、芸能人だったら乱れた恋愛関係とかだろうがこんなもん書くくらいなら街頭インタビューで右利きと左利きどっちがモテるか集計したほうが読んでもらえんだよ!」

そういうと男は右手に持っていた記事をクルッと丸めて机に叩きつける。

「はい…スミマセン。」

「納期近いから簡単なのでいい。もっと興味をそそるようなネタを探してこい。」

斎藤茉奈美。雑誌記者を続けて10年余経つが成績はいまいちであり、それでもなおこの会社に在籍していられるのは知人のコネによるものであった。

一通りお叱りを受けたところで夜の街を再び歩みを進める。

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