Over the sky Online
琴猫
心は燃えているか…?
◇◇◇―――――◇◇◇
【Over the sky Onlineサービス終了のお知らせ】
※エースパイロット各位※
おはようございます! Over the sky Online広報部です。
これまで本作品をプレイして頂き、誠にありがとうございます。
大変残念ではございますが、〝Over the sky Online〟のサービスを終了することと決定いたしました。
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(サービス終了日時)
2030/04/1 24:00 (東京時間)
※お遊びの地域によってサービス終了日時が前後する可能性がございます。
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VRMMOの黎明期と共に公開され、アップグレードを重ねていき、10年という長期に渡って本作をご愛顧いただきましたこと、社員一同心よりお礼申し上げます。
この10年の間に、数多くの次世代タイトルが誕生し、プレイヤー皆様が楽しめる世界は無限に広がっております。
本作がその旅路にご一緒できないこと誠に心苦しい限りではございますが、過去、まだ各家庭に大型の据え置きハードが置かれていた時代の伝説的タイトルと共に本作を記憶の末端にでも留めていただけましたらこれ以上の幸せはございません。
最終グランドミッション〝最後の饗宴〟は2030/03/31 24:00よりスタートです。
NUN(新国連)有志連合軍、シルクロード共同体軍の総力戦! 有人機、無人機、艦隊、地上部隊全てが入り乱れる狂乱の決戦!
エースパイロット各位の奮闘に期待します!
全ての空に幸運を!
Over the sky Online広報部
運営チーム一同
◇◇◇―――――◇◇◇
『――――くそォッ! よりにもよってアフターバーナーに当たっちまったぜ! 出力が上がらねえ……!』
『ジョーホゥッ!!』
『あばよ皆ッ! 俺の荷物はアリゾナに送ってくれよな!』
キャノピーの外で何もかもが滅茶苦茶に入り乱れている。
そんな中で辛うじて見えたのは、1機のF/i-20〝フェザーント〟戦闘攻撃機が炎の尾を纏いながら急降下していき―――――満身創痍の敵ミサイル駆逐艦に頭上から激突する所だった。
シルクロード共同体の雲南5級ミサイル駆逐艦1隻が、真っ二つに引き裂かれて沈没していく。
だがその光景を数秒と視界に留めておくことは、俺にはできなかった。
F/i-24C〝ラグキャット〟戦闘機。俺……【プレイヤー名:yun】が駆る愛機。映画の主役機にもなった伝説的海軍戦闘機をステルス仕様にしたかのような、ご機嫌な俺の機体。
いつになく【WARNING】が鳴り響き、俺は大型MFD(多機能表示画面)の右側に表示したレーダー表示画面に目を走らせた。
対空ミサイル(おそらくCQ-78中距離空対空ミサイル)が急速接近。
数は4発。どこかの2機編隊が一斉発射したのだろう。
俺は、スロットルレバーに配置された多数のスイッチの中から【対抗装置】スイッチを押し込んだ。これで敵性ミサイルのアクティブレーダーホーミングを欺瞞するジャマーやチャフが作動し、最悪時の着弾に備えてEPS(電磁分極シールド)も通電状態になる。
結果、お呼びでない中距離空対空ミサイルは………明後日の方角へと飛び去っていった。それらが雲の向こうに消えた瞬間、俺は用済みのミサイルに意識を集中するのを止めた。やることは他にも、山ほどある。
無数の敵機。有人機と無人機が入り乱れて空を埋め尽くし、海にはビッシリと、8隻の原子力空母を守るように敵艦の艦列が並ぶ。湾岸には高層ビルの屋上、都市高速道路、空き地の真ん中に………とにかく対空火器が置けそうな空間全てに対空砲や地対空ミサイル陣地がひしめいている。
現代戦のセオリーや現実を完全無視した、非現実的な光景が俺の視界に広がっているのは―――これが実際に起こっていることではなく、〝Over the sky Online〟というVRMMOスカイシューティングの中で繰り広げられているからだ。
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205X年。無人兵器の普及、核兵器の無効化技術が確立、旧国連による安全保障体制の崩壊によって世界規模の戦乱が続く世界。
プレイヤーは二大陣営…旧西側諸国から成る【NUN】(New-United Nations)有志連合軍もしくは、中国・ロシアを基幹国とした【シルクロード共同体】軍のどちらかに傭兵として所属し、自陣営の覇権を賭けた争いに身を投じることとなる。
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「現実世界より忙しいぜ、ココ………」
俺は荒い吐息の中に溜息を混じらせながら、ちょうどこちらにケツを見せているデルタ翼の敵機……シルクロード共同体軍の無人戦闘機Ch-270目がけ、ミサイルのシーカーを起動した。
【〝A-102――RDY〟】
「Fox………ッ!」
短いコールと共に、俺は右手の操縦桿上にある兵装使用スイッチを押し下げた。
F/i-24C腹部のウェポンベイ(内蔵兵装庫)がパカリ、と開きAAM-102〝デスアダー〟短距離空対空ミサイルが一発、解き放たれた。
精密赤外線誘導によってマッハ2.5の速さで発射された〝デスアダー〟は、次の瞬間、回避機動が間に合わなかった中華製無人戦闘機をぶち抜き、それを一瞬にして無価値な火だるまへと変えてしまった。
それまで撃ち落とされてきた敵味方機同様………真っ赤な火球となって墜ちていく敵機。
さらに、背後に回り込んだ別のCh-270に対処する。俺はフレアとチャフをまき散らし、最大出力でジャマーを作動させながら敵機の照準を攪乱しつつ、スロットルレバー側面を押し込んでF/i-24の可変翼自動制御システムを一時解除。〝全拡翼〟モードに設定して翼を最大まで広げた。
全拡翼モードは着艦・着陸時、対地攻撃時に主翼を大きく展開することで機体を安定させるためのものだ。高速で飛び回っている最中に主翼の角度を変更することは、可変制御システムの強度上好ましくないのだが………戦闘時には多少の無理を聞いてもらわなければ生き残れないこともある。
デルタ翼のCh-270は速い。そして次世代ミサイル万能論の申し子であり、野暮ったい航空機関砲など積んでない。
俺は敵機の〝速さ〟を逆手に、Ch-270の背後を取った。
JM121-A 22.1ミリガトリング機関砲を起動。
ピパー(照星)に敵機が収まる一瞬、逃さない。
俺は1秒間トリガーを引き絞った。
〝ヴァアアアアアアアアアアアッ!!!〟という重低の発射音と共に数百発の22.1ミリガトリング機関砲弾が撃ち出され、敵無人戦闘機に吸い込まれていく。
その運動エネルギーは容赦なくCh-270を引き裂き、バラバラに分解されてその構造を眼下の大海へとぶち撒けた。
『〝オーシャン7〟――-ユンが2機仕留めたぞ!』
『無人機を単機で仕留めるとは……相変わらずの一匹狼だぜ。最終日ぐらい編隊組ませろよな』
「俺について来られるのならいつでも大歓迎だぜ! なかなかいい相方がいなくて困ってるんだ」
僚機に言い返しながら俺は、すぐさま可変翼自動制御システムを再起動。スロットルレバーを押し込んで急加速。デルタ翼モードになった俺のF/i-24は、直ちに超音速の速度を回復した。
これは、ゲームの世界の話だ。敵はNPCもしくはシルクロード共同体を自陣営として選択したプレイヤーたち。ハイテクの塊であるF/i-24Cを操れるのも、VR技術の副産物として開発された〝疑似情報野生成システム〟の恩恵あればこそだ。
これは、プレイヤーの脳と仮想世界を繋ぐ際に脳内に疑似的に生成される〝疑似情報野〟に情報を伝達することで、航空機を操るのに必要な情報を一時的に脳内に転写するものだ。ゲームを終了し、VRMMOヘッドギアを頭から引き剥がせば、その知識はほとんど脳内には残らない。
仮想現実。
現実世界に縛られた者たちを一時、エースパイロットとして大空へと誘う、邯鄲の夢。
だがそのリアルさは、現実世界に迫り、時に凌駕しているのではと思わせるほど。
そして仮想世界での激闘を通じて培われたエース達の友情もまた………この世界では本物だ。
たとえ現実世界での都合で今日、失われる運命にあるとしても。
『ジョーホゥ! ルマーソン! 俺も今からそっちに………!』
「まだだ、諦めるなジェスター! 後ろの敵をやれ!」
『へへ……友達ってのはいいよなァ。俺、
「俺も………学校じゃ話の合う奴がいなくてな」
『へ………何か軽くでもいいから学生のうちにスポーツしときな。27歳負け犬からの忠告だ。あばよ』
〝オーシャン2〟―――プレイヤー名:ジェスターは、4機のCh-270と敵艦を1隻仕留めたが、次の瞬間、3機の無人戦闘機の連携の前に遂に撃ち落とされた。
高度1万メートル。この世界じゃ骨も残らない………。
「ジェスターが………!」
『畜生ッ! 敵の数減ってねえぞッ!?』
『NUNもシルクロードも、無人機ばっかり増やしやがって真っ直ぐ飛べやしねえ!』
「ジェッセンは? シルヴァナ飛行隊はどうした!?」
『もう影も形も見えねえよ!』
ミッション開始当初、数十の飛行隊がひしめき、数千数百ものプレイヤーが饗宴を繰り広げていたはずの大空は―――――サービス終了時間まで残り47分。俺が所属するオーシャン飛行隊と、敵側のブレジネフ飛行隊を残すのみとなっていた。
墜ちていったプレイヤーと入れ替わるかのように次々と敵味方の無人戦闘機が空を埋め始める。
自然と俺たちは湾岸の高層ビル群へと追い立てられていった。
『低く飛べばビルの上の対空火器はかわせる!――――最期の瞬間まで生き残るぞ!』
「オーシャン7、ユン了解!」
『オーシャン5、モジロー了解っ!』
『オーシャン16、アケボノ了か………うわっ!?』
ビルの谷間を縫うように飛んでいた俺たちの中で、オーシャン16のF/i-24が全面ガラス張りのビルの端に激突。摩天楼の一端を炎で瞬間的に染め上げた。
『ドジめが………俺もすぐ行くからな』
「味方の無人機は何やってるんだ………!?」
NUNが誇るQ/i-127〝ミッドナイト〟無人戦闘攻撃機は、レーダー表示画面上の配置を見る限り……Ch-270の殲滅を最優先に行動している様子だった。
「オーシャン7より1! 飛行隊長権限で無人機に援護命令を………」
『ダメだ! さっきから命令を受け付けない!………プレイヤー機は何が何でも終了時間までに全滅させるつもりみたいだな』
くそ………! 音速に迫る速度で歩道橋の間をギリギリすり抜けながら、俺は歯噛みを隠せなかった。難易度の高いミッションは大歓迎だが、次から次へと想定外のトラブルが起こるのは好ましくない。
『だがこのままコソコソ逃げ回るよりかは………もう一戦するかッ!』
「ついて行くぜオーシャン1!――――レシャード!」
『残り5機だが………最後まで頼むぜ!』
『OTS最強のオーシャン飛行隊、最後の花道よォッ!』
『よし………この芝居の幕は、私たちの手で下ろしてやる。ついて来いッ!!』
刹那、俺たちオーシャン飛行隊の生き残りである5機は、ビルの谷間から一気に急上昇し、上方から頭を抑えつつあったCh-270の編隊と真正面から戦いを挑んだ。
それは、誇り高きエースパイロットたちの、最後の戦い。
激戦を生き抜いた猛者たちに、アクティブレーダーホーミングの中距離空対空ミサイルなど当たりはしない。だがそこで、チャフ・フレアは弾切れとなりジャマーも強制冷却モードへと入った。
十数機のCh-270と5機のF/i-24が瞬間的にすれ違う。すかさず急旋回し、同じく機首をこちらに向けてきた敵機を1機、俺は機関砲で撃破した。
そこから先は、有人機対無人機の、互いの力量と尊厳を賭けた戦い。短距離空対空ミサイル、機関砲弾が飛び交い、F/i-24が、Ch-270が、撃ち抜かれ、火だるまになり、1機また1機と落下していく。
俺もまた、AAM-102を発射し2機のCh-270を撃破。短距離・中距離共にミサイルを撃ち尽くすと無駄撃ち上等で機関砲をばら撒いた。1機の片翼を弾幕でもぎ取り、1機の胴体にヒットさせて爆散させる。
〝ヴァァッ!〟というイタチの最後っ屁のようなラスト1秒の射撃で、敵機を真っ二つに。これで俺は全ての攻撃オプションを使い果たした
そして――――気づけば、残る有人機はオーシャン1と7。レシャードと俺だけになっていた。
最後の仕上げとばかりに、背後に回り込んだ数機のCh-270がCQ-25短距離空対空ミサイルを一斉に発射。計12基のミサイルが真っ直ぐ、俺とレシャードへと迫る。
『くそ………! ついて来いユンッ! 左旋回で―――――ユン!?』
「もう回避できない!………できるだけ引き受けるッ!」
オーシャン1が急旋回して回避するが、ワンテンポ出遅れた俺は………大きく機首を跳ね上げて主翼も最大角度まで広げた。
刹那、数発の敵ミサイルが容赦なく俺のF/i-24に直撃。迸る火球が機体構造の多くを呑み込み、引き裂いて一瞬で焼き尽くす。
当然、俺が座るコックピットも、背後からの火花と炎に飲まれた。ペインアブソーバのお陰でほとんど苦痛は感じないが、炎や破片が身体に食い込む感触をうっすら感じる。
大破した俺の乗機は、俺を乗せて眼下の大海へと落下していく。
『オーシャン7! ユンッ!』
「全部かわしたんですね………いい腕です」
『私の身代わりになったのか………っ!』
「あなたがいたから……オーシャン飛行隊は空を飛べた。自由に。あなたが作ってくれたこの居場所が………俺たちに自由をくれた。だから………」
『………先に地獄で待っていろ。私もすぐに向かう。全てにケリをつけて必ず………!』
………とことん、かっけェなあ。リアルじゃ何してる人なんだろ。
身体が散り行く感覚に身を委ねながら、俺は最後に頬を緩めた。
じゃあな、レシャード。
あばよ、Over the sky Online。
なに。また新しい戦場に行くだけだ。だが、世の中不景気とファンタジーブームで盛大にドンパチやれるのはココしかなかったのに。FPSで歩兵なんて性に合わないしな。
燃えるコックピット。
ヒビが入ったキャノピー。
迫る海面。
いや、それを待つまでもない。
次の瞬間、中空で俺の愛機は、残った燃料に引火して爆散した。
◇◇◇―――――◇◇◇
Over the sky Onlineは2030年4月1日をもちまして終了いたしました。
長年のご愛顧、誠にありがとうございました!
どうかエースパイロットの皆様、全ての空に幸運がありますように……
Over the sky Online広報部
運営チーム一同
◇◇◇―――――◇◇◇
Over the sky Online 琴猫 @kotoneko112
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