第68話
そして冒険者たち。
「右だ右。そっちは逆」
脚立の上でドーリーの指示を聞くがどうもおぼつかないV。
「私から見て右ですか」
「俺から見て右だ」
「つまりどっちですか」
そんなやり取りを繰り返しながら、冬になり葉が枯れた庭木を刈り込んでいる。
ドーリーはバランスよく刈れているかを見て確認しながら、テーブルだのなんだのを拭いて汚れを落としている。
「この・・・石・・・どうする・・・」
「どうもこうも、修復の仕様がない物は捨てちゃいましょう」
マリーは鉄兜と雇った使い走りに指示をして庭の石像の交換。
酷いものは処分し、直せそうなものは知り合いの業者に渡す。
「払いすぎましたし、もうすこし働いてもらいましょうか。冬支度は大変なんです」
代表団と一緒に首都に帰り、さぁ残りの報酬だ。というとき雇い主の女帝は冒険者たちにそういった。
「えぇっと」
そういうのは困るとマリーは言おうとしたが
「追加依頼の方は組合の方に申請していないでしょう」
と無下に断られた。
実際、組合に申請せず仕事を請け負ったことがばれると大目玉を食らって今後に響く。
初回の依頼の延長とか何とか言ってごまかすつもりだった。それはそれでばれたらまずいが、そう言って断れる相手じゃない。
「初回報酬のボーナス分、それに追加の仕事を請け負うことになったとして申請してください。それで帳尻は合うでしょう」
女帝はその辺の事情など既に察している。
そういうわけで、庭の冬支度を手伝うことになった。
「小さなものになりますが」
「かまいません」
それを遠目でほほえましく見ながら、女帝は商人と商談している。
庭に人がいるのはいい。
「骨を収めるわけではありませんので」
「しかし、遺骨はまだ埋葬しておりませんので」
内容は孫の墓の相談。
「よいのです。わたしが引き取れば、それは家族内の不和の種になる」
トラブルを起こして家から飛び出したのだ。
名もなき冒険者として死んでもらわなければならない。
彼女の一族はそう言う一族だし、彼女はそう言う生き方をしてきた。
「畏まりました。葬儀はわたくしが執り行います」
そう言って商人は一番小さく、目立たない慰霊碑を女帝に勧めた。
国境沿いで殺された冒険者は、なじみの商人が遺骨を引き取り首都近くの共同墓地に埋葬された。
その時行われた葬儀は、簡素ながら儀礼に従ったしっかりしたもので、この事件の関係者である役人や貴族も何人か出席したそうだ。
「はぁ」
ドーリーの指示よりも自分で確認した方が早い。と庭木の刈り込みの手を止めたVはそうため息。
そして何となく空を見る。
首都の空だ。もう冬といって差し支えない。
周りには老婆と商人と冒険者たち。
「冬の次は春だ」
なにが来てもこうやって生きるしかない。
家賃と食費、その他諸々の請求書の束、それを減らすための仕事。
「いつの日か死神が自分の肩をたたくまでは生きるしかない。そして冒険者はみんながベットの上で死ねる仕事じゃない。でも自分でそれを選んだんだ」
そう思って天国か地獄で割り切ってくれよ。
生きているときには一度もあった事はない、名前は知らないが顔は知っている、そんな冒険者に対してそう呟いて、彼は自分の仕事を再開した。
終わり
パーティーを追放されてもダンジョン探索、とは行かないようです。もしくは「あのパーティーの話」 飛騨牛・牛・牛太郎 @fjjpgtiwi
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