第67話
新聞は一番面白いところを書き立てるが、腰を据えて一つの話題を追いかけるという事をしない。
その姿勢を批判する人もいるが、その姿勢を批判する人も次から次へと新しい話題を求めているのだ。
一つの話題を追いかけ続けるのは、その話題が自分の身の上に降りかかる時だけ。
そういったわけで大衆に合わせて新聞も動いているだけ。
この一連の領土紛争も、女帝の話やA国の話など様々な話題が書き立てられたがそのうちほかの話題の海に消えていった。
帝国は広い。書く話題はいろいろとある。そして戦争にならない領土問題など大衆にとってもその程度の扱い。
しかしそれでは物語として締まらないので、この物語に関わる話をいくつか書いて終わりとする。
まず、帝国とA国の領土問題については翌年行われた会議とそれまでに行われた事務方の議論によりアクセスがしやすい帝国の物として決着がついた。
帝国はそれに対して一定の金銭的補償と技術支援を行うという形。
小さくても領土だ。双方の面目を保つのは大事なこと。
帝国の特別騎士団団長はその働きを認められ、地区の上層部に栄転となった。
ただ回された仕事が市中警備部隊の隊長。事務能力より機転と体力が求められるこういった仕事は根っから向いてない男。
そしていろいろあったが、まぁ結局騎士団をやめた。
今は隊商の一員として土地勘があるA国と帝国の国境沿いを行ったり来たりしている。
「こうなるなら出世なんかしない方がよかったと思うよ」
と未練がましく言っているそうだが、騎士団という前職と事務方としての能力を買われどんどん出世しているそうだ。
A国の隊長の隊長はまた違ったコース。
前線での働きを認められはしたが、それと同時に後ろからくる「要望」を全部拒否という厄介な人間というイメージを持たれた。
その一方で「帝国にあらがった軍人」というイメージと人気だけはある。つまり厄介な立場。
首都の議会やら軍部やらでいろいろな話し合いが行われた結果、なぜか知らないが
「A家近衛兵軍身辺警護主任役」
なるよくわからない仰々しい役職が新設されそちらに回された。
新聞に載った話ではA家の人間に気に入られたとかなんとか。真偽のほどはよく知らない。
まぁそういうわけで、一応の栄転。やることはA家の親族のボディーガードを統括する仕事。そこで真面目に働いてるそうだ。
「まぁ、出世して給料が増えた手前、表で文句はいえませんが、正直この空が懐かしいです」
とは辺境公に述べた一言。
その辺境公は、まぁ今もおおむね変わらず暮らしている。
馬を育てて売る、来客をもてなす。地域の顔役としてイベントで挨拶。所有している土地の管理に日々の使用人の様子を見る。
今度、共和国で行われている競馬(来客の一人に聞いた)という物を見に行こうと考えているらしいが、それ以外は大差ない。
変わったこととしては、たまにA家の王女様が遊びに来るようになった。
この土地を気に入ったらしい。名誉あることだ。両国とも友好の一環として歓迎ムード。
辺境公は若い女性が来ても遊ぶ相手がいないと思ったが、騎士団の訓練を終えて屋敷から近くの部隊に出勤している息子と仲良くやっているようだ。
「個人的には喜ばしいがなぁ」
とは親としての一言。
A国にとらえられた残りの冒険者たちは裁判にかけられた。
証言はみな変わらない。証拠もそれを物語っている。そうなると犯人隠匿。ただ事情が事情だ。悪質性があったかどうか。
そう言った議論が喧々諤々と行われ、結局罰金刑で済んだ。それでまで一流としてそれなりに稼いでいたので即日納付し解放。
釈放後、律儀にも三人連名で首都の冒険者組合に任務失敗の旨を届け出る報告書を郵送した。
その後の行方はよくわからない。帝国に帰ってきているはずだが、共和国に向かったのではないかという話もある。
ちなみに報告書は受理された。
「明確な言葉に明瞭な内容。報告書の手本として展示したい内容ね」
とは組合の事務員の言葉。
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