ラブレター どこにいるともしれなかった、だれかもわからなかったあなたへ

針野六四六

プロローグ

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 どこにいるともしれない、だれかもわからないあなたへ


 はじめまして、こんにちは。

 金橋中学二年、小原おばら きざはしです。


 まずはこの手紙を拾ってくれてありがとう。

 あなたはどこにいる人ですか。

 あなたのなまえはなんですか。


 何にも知らないけれど、僕はあなたがこの手紙を拾ってくれて、大袈裟に言えば世界一幸せです。

 誰にも届かないかもしれない、そう思いながら書いた手紙を受け取ってくれたのが、あなたで良かった。

 心の底からそう思います。


 自己紹介をしておきます。

 それと、どうしてこんな手紙を書いているのかを書いておきます。


 僕は兵庫県の少し寂れたところに住んでいてーーーー

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 手紙を少女が握っている。

 力が入り過ぎているのだろう、手紙は添えられた指に沿ってぐしゃりとシワだらけになっていた。


 どこにいるともしれない、だれかもわからないあなたへ

 そんな書き出しで始まった手紙を手に取って、

 彼女は、泣いている。


「いい、のかな……」


 ぽつりと呟く彼女の目は、微かな狂気に満ちていた。

 涙をこぼしているのに彼女の口元はわずかに弧を描いている。

 全然何も笑えるようなことがあるわけでは無い。どういう表情を浮かべれば良いのか分からないから、歪んでしまった口元が笑みの形に似ているだけ。


「こんなこと書いてあるんだから、良いんだよね……」


 自らに言い聞かせるような声だった。

 いや、踏ん切りがつかないけれど、と、そう思ってしまっている彼女の心境からすれば。

 彼女は自分で自分の背中を押しているのだ。


 


 身に纏う白銀の鎧が光に反射して煌めいた。迸る感情に当てられたのか、髪の毛がふわりと持ち上がり、

 はたと彼女は顔を上げる。


 その瞳に決意が宿っている。


 椅子から立ち上がり、腰のを床に突き刺す。

 準備は万端だ。



 一呼吸、さっと目を通した手紙はこう締められている。

 書き出しを繰り返し、手紙の末尾にはこう記されている。


*************

 どこにいるともしれない、だれかもわからないあなたへ


 あなたのことが好きです。

 大袈裟に言ってしまえば、世界で一番あなたが大好きです。


 僕はこんなどうしようもない場所にいるから、遠くから祈ることしかできないけれど。

 幸せになってください。

 僕はきっと、幸せになったあなたのことを考えていて、ずっと幸せだから。

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ラブレター どこにいるともしれなかった、だれかもわからなかったあなたへ 針野六四六 @zakozasf

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